優れたリーダーはみな小心者である。

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出版社
ダイヤモンド社

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出版日
2017年09月21日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

リーダーというと、威圧的なオーラをもった「図太い人物」をイメージするかもしれない。が、著者が一流のリーダーの素質として語るのは、その真逆の姿である。

誰もが共感する理想を掲げ、メンバーの主体性を徹底的に尊重する。そして、そのためにメンバーの気持ちを繊細に感じ取りながら、丁寧なコミュニケーションを重ねる。これが、著者の考える「小心者のリーダーシップ」だ。細やかさを束ね合わせた強靭さこそ、リーダーにふさわしいというわけである。

著者は、ブリヂストンの海外事業所でキャリアを積み重ね、まさに現場からのたたき上げでCEOとなった人物だ。タイヤ業界は、国際規格商品ゆえの参入障壁の低さから、“Cut Throat Business”(喉をかき切るビジネス)といわれ、世界中のメーカーがしのぎを削る。その中で、2005年にブリヂストンがトップシェアを奪還した翌年から、著者は同社を率いてきた。

本書は、自身の経験を語りつつ、リーダーが実践すべき原理原則を挙げていくスタイルである。どの原則も一見するとシンプルであるが、そうした原則から外れる場面が実際のビジネスでいかに多いか、改めて気づかされるのである。そのことに思い当たり、襟を正す気持ちに襲われないビジネスパーソンは、おそらくひとりとしておられないのではないだろうか。

剛腕という言葉でイメージされるリーダーシップがいかに誤ったものか、現役のリーダーの方にも、これからリーダーをめざす方にも、読むべき書がここにまた加わったということを、喜びをもってお伝えしたい。

ライター画像
しいたに

著者

荒川 詔四(あらかわ しょうし)
世界最大のタイヤメーカー株式会社ブリヂストン元CEO。
1944年山形県生まれ。東京外国語大学外国語学部インドシナ語学科卒業後、ブリヂストンタイヤ(のちにブリヂストン)入社。タイ、中近東、中国、ヨーロッパなどでキャリアを積むほか、アメリカの国民的企業ファイアストン買収時には、社長秘書として実務を取り仕切るなど、海外事業に多大な貢献をする。
タイ現地法人CEOとしては、国内トップシェアを確立するとともに東南アジアにおける一大拠点に仕立て上げたほか、ヨーロッパ現地法人CEOとしては、就任時に非常に厳しい経営状況にあった欧州事業の立て直しを成功させる。
その後、本社副社長などを経て、同社がフランスのミシュランを抜いて世界トップシェア企業の地位を奪還した翌年、2006年に本社CEOに就任。「名実ともに世界ナンバーワン企業としての基盤を築く」を旗印に、世界約14万人の従業員を率いる。
2008年のリーマンショックなどの危機をくぐりぬけながら、創業以来最大規模の組織改革を敢行したほか、独自のグローバル・マネジメント・システムも導入。また、世界中の工場の統廃合・新設を急ピッチで進めるとともに、基礎研究に多大な投資をすることで長期的な企業戦略も明確化するなど、一部メディアから「超強気の経営」と称せられるアグレッシブな経営を展開。その結果、ROA6%という当初目標を達成する。2012年3月に会長就任。2013年3月に相談役に退いた。キリンホールディングス株式会社社外取締役などを歴任。

本書の要点

  • 要点
    1
    相手の気持ちを思いやる「繊細さ」は、トラブルの際にも威力を発揮し、トラブル解決の経験を積み重ねていくと腹が据わって「楽観主義」が育つ。小心な楽観主義者こそ、リーダーとして最強だ。
  • 要点
    2
    リーダーは、現物・現場・現実の「3現」を自らが体感した上で指示を出すべきだ。大きな決断の前に不安があるなら、「3現」を体感すべく現場に出向くべきだ。
  • 要点
    3
    メンバー一人ひとりのオーナーシップを尊重し、チームが自発的に動き出す状況をつくる。そして、全体最適を図りながら結果を出していくことこそが真のリーダーシップである。

要約

「小心な楽観主義者」が最強である

入社2年目に学んだリーダーシップの原点
paulaphoto/iStock/Thinkstock

著者のリーダーシップの原点となった出来事がある。入社2年目で、タイの工場に配属され、「タイ人従業員による在庫管理が混乱しているので正常化せよ」という指示が下った。「舐められたらダメだ」と気負った著者は、強圧的な姿勢で改善を要求した。ところがそれが現地従業員の猛烈な反発を食らい、在庫管理どころか、職場が機能不全に陥りかけてしまった。

そのとき気づいたのは、頭ごなしに仕事を否定されて反発を感じない人間などどこにもいない、という当たり前のことである。そこで、それまでの姿勢を180度転換し、丁寧にコミュニケーションをとり、どうすればいいかを考え、タイ人従業員とともに汗を流した。結果、ようやく状況が動いていったのである。

リーダーシップとは、相手を無理やり動かすことではない。相手の気持ちを思いやる「繊細さ」こそ、大切にすべきなのだ。

トラブルが起きているからこそ、「仕事は順調だ」と考える

トラブルを解決するのは、リーダーの重要な役割のひとつだ。そして、まともに仕事をしていればトラブルは必ず起こるものである。だからむしろ、トラブルが起きているからこそ順調なのだと言うことができる。

そして、トラブルは必ず解決できる。それは、あらゆるビジネスは人間対人間の営みだからである。利害の対立などでその人間関係に亀裂が入ったとしても、逃げることなく、まっすぐに相手と向き合うことによって、信頼関係を結びなおすことさえできれば必ず糸口を見出すことができる。

その際に威力を発揮するのが、相手の立場、利害、感情を細やかに察知する「繊細さ」である。むやみに「好戦的な人物」よりも「繊細な人物」のほうが、よほどトラブルに強いというのが著者の確信するところである。

そして、トラブルから逃げずに誠実に対処する経験を積んでいけば、どんなトラブルでも解決できるという楽観主義が育っていく。この楽観主義があればこそ、部下から上がってきたトラブル案件に対して、「任せろ」と腹を据えて取り組むことができるのだ。

仕事の「所有権」をしっかり握る

オーナーシップ(ownership)は、リーダーシップの基本を成すものだ。

組織として仕事をするためには「自分の意思」「自分の意見」を殺さなければならないと考えてしまう人は多い。しかし、それは自らの頭で考え抜くことを放棄した言い訳にすぎない。自分の意思や意見を軸にして、最適な施策を実現すべく、組織にアプローチしていくことが「担当者」の仕事であり、それが仕事のオーナーシップを持つということである。実際の職位にかかわらず、こうした行動にこそリーダーシップが発揮されているといえる。

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要約公開日 2018.03.21
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