著者のリーダーシップの原点となった出来事がある。入社2年目で、タイの工場に配属され、「タイ人従業員による在庫管理が混乱しているので正常化せよ」という指示が下った。「舐められたらダメだ」と気負った著者は、強圧的な姿勢で改善を要求した。ところがそれが現地従業員の猛烈な反発を食らい、在庫管理どころか、職場が機能不全に陥りかけてしまった。
そのとき気づいたのは、頭ごなしに仕事を否定されて反発を感じない人間などどこにもいない、という当たり前のことである。そこで、それまでの姿勢を180度転換し、丁寧にコミュニケーションをとり、どうすればいいかを考え、タイ人従業員とともに汗を流した。結果、ようやく状況が動いていったのである。
リーダーシップとは、相手を無理やり動かすことではない。相手の気持ちを思いやる「繊細さ」こそ、大切にすべきなのだ。
トラブルを解決するのは、リーダーの重要な役割のひとつだ。そして、まともに仕事をしていればトラブルは必ず起こるものである。だからむしろ、トラブルが起きているからこそ順調なのだと言うことができる。
そして、トラブルは必ず解決できる。それは、あらゆるビジネスは人間対人間の営みだからである。利害の対立などでその人間関係に亀裂が入ったとしても、逃げることなく、まっすぐに相手と向き合うことによって、信頼関係を結びなおすことさえできれば必ず糸口を見出すことができる。
その際に威力を発揮するのが、相手の立場、利害、感情を細やかに察知する「繊細さ」である。むやみに「好戦的な人物」よりも「繊細な人物」のほうが、よほどトラブルに強いというのが著者の確信するところである。
そして、トラブルから逃げずに誠実に対処する経験を積んでいけば、どんなトラブルでも解決できるという楽観主義が育っていく。この楽観主義があればこそ、部下から上がってきたトラブル案件に対して、「任せろ」と腹を据えて取り組むことができるのだ。
オーナーシップ(ownership)は、リーダーシップの基本を成すものだ。
組織として仕事をするためには「自分の意思」「自分の意見」を殺さなければならないと考えてしまう人は多い。しかし、それは自らの頭で考え抜くことを放棄した言い訳にすぎない。自分の意思や意見を軸にして、最適な施策を実現すべく、組織にアプローチしていくことが「担当者」の仕事であり、それが仕事のオーナーシップを持つということである。実際の職位にかかわらず、こうした行動にこそリーダーシップが発揮されているといえる。
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