主人公の女子大生、桐生七海(きりゅうななみ)は「受注数世界一の殺しの会社を創りたい」という野望をかなえるため、「世界一のマーケティング技巧」をもつ西城潤(さいじょううるお)へ弟子入りする。第1幕においては、西城がさまざまな場面において七海にビジネスのキーワードを説いている。
たとえば保険会社のビジネスは、火災や病気という回避できない事象に遭遇したとき、少しでも安心したいという「安心の需要」があるからこそ成り立っている。つまり大きなリスクの伴う「殺し」という業界には、とてつもなく大きな「安心の需要」があるということだ。このことから七海は、殺しを本業としながら警備や保険事業も行なうというビジネスモデルを思いつく。
マーケティングにもっとも効果的といわれるのは、「広告」「営業」「PR」である。しかし七海の場合、事業が違法であるために広告などを一切行なうことができない「マーケティングの三重苦」を抱えていた。
この問題に対処するため、西城は早朝の吉祥寺ダイヤ街に七海を呼び出し、自身が世界最強と語る、吉祥寺「小(お)ざさ」のビジネスモデルを紹介する。「小ざさ」は1日150本限定の羊羹を求め、人々の行列が40年以上途絶えない有名店だ。この行列のおかげで「小ざさ」は、「広告」「営業」「PR」をせずともビジネスを維持できている。その売上は1坪にもかかわらず年商3億円。坪あたりの売り上げに換算すると、あのアップルの19.2倍にもなる。
しかし羊羹だけでこの数字が出せるわけではない。「小ざさ」が年商3億を達成している秘密は、羊羹とともに売られている最中(もなか)にある。羊羹は1日の販売数が限られているが、最中は通販も行なわれており、実際その売上のほとんどは最中が占めている。
このビジネスモデルにヒントを得た七海は、全体の売上(100%)=殺し(10%)+警備や保険などの「安心」(90%)というビジネスモデルを構築。広告ができない殺しのビジネスを「小ざさ」における「行列」と見立てつつ、安心の事業も維持するという目標を立てた。
西城に師事しはじめ、しばらくしてのことである。七海が社長をつとめる表の会社「レイニー・アンブレラ」が警備を担当するイベントで、大勢の前でクライアントを狙撃されるという事件が起こった。このことをきっかけに、七海がつくりあげた会社の「ブランド」はもろくも崩れ去る。しかし西城はこれをチャンスだと断言し、会社がなぜ崩壊したか、「7つのマーケティング・クリエーション」の構造を用いながら解説する。
7つのマーケティング・クリエーションは、「1.ストーリー(旅立ちの理由)」「2.コンテンツ(商品)」「3.モデル(仕組み)」「4.エビデンス(実数値)」「5.スパイラル(上昇螺旋)」「6.ブランド(信頼)」「7.アトモスフィア(空気)」からなる、積み上げ式の理論だ。
「1.ストーリー」は共感を呼ぶ物語のことであり、この理論の出発点でもある。とはいえお金儲けという動機では、なかなか共感は得られない。事業成功のためには、まず自分自身が事業を継続するために強い動機をもち、それを語ることで人の心を動かし、協力を得ていくことが必要である。
「2.コンテンツ」とは、売上をたてるために必要な商品のことだ。マーケティングにとっての核であり、この理論の土台である。コンテンツがなければ行列はありえない。
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