「モノが売れない時代」と言われて久しい。本書でいうところの「モノ」とは、物質的な「物」だけではなく、人々が心の奥底で求めているものや事柄(コト)まで含めた総称である。つまり、モノがまったく売れていないということはない。ヒットしているモノにはワケがある。企業側による「良いモノを提供する」という押しつけではなく、消費者が求めている「心の声」に耳を傾けて形にする。こうした努力のもとに生まれた商品こそがヒットとなる。なぜなら消費者は、自分で主体的にモノを選びたいと考えているためだ。
消費者が商品の善し悪しを判断するための「心の声」は、曖昧な「雰囲気」のようなものの場合が多い。しかも、その「雰囲気」を生み出している場はソーシャルメディアであり、場の中心にいるのは有名タレントでも、専門家でもなく、一般の人々だ。ソーシャルメディアで影響力を持つ一般の人々を「インフルエンサー」と呼ぶ。この存在を抜きにして、ヒットを生み出すことはきわめて難しいと言えるだろう。
日本でよく使われているソーシャルメディアは、インスタグラム、Facebook、Twitterなどである。そのユーザー総数は、2017年7月時点で8300万人を突破している。そこで注目されているのがインフルエンサーだ。
インフルエンサーとは、ソーシャルメディア上で影響力を持つ一般の人々を指す。学生やOL、主婦、サラリーマンなどで、ソーシャルメディア上では数万人から数十万人のフォロワーを抱えている。現在は女性に多く、そのフォロワーたちはインフルエンサーに近い価値観の持ち主だと想定される。だからこそ、現在の情報発信の主役である彼女たちに、それぞれの価値観に合った商品PRを頼めば、大きな効果が期待できる。
企業においても、ソーシャルメディアをはじめとする、デジタルのコミュニケーションが欠かせないものとなっている。デジタルといえども、基本的には人間と人間のコミュニケーションであるため、そこには必ず「熱」が存在する。
デジタルのコミュニケーションの場における「熱」の正体は「共感」だ。これは、ソーシャルメディア上では「シェア」という形で現れ、「エンゲージメント」と呼ばれる。つまり企業にとって、ソーシャルメディアの中で、熱のある「共感」と「シェア」を作ることがこれまで以上に求められている。
ソーシャルメディアの世界では、ユーザーは自分が一目置いている人の価値観に共感する。そして、その同じ感覚を、モノを通して共有しようとする傾向がある。したがって、ソーシャルメディアでCMをする際に重要なのは、モノの価値を並べることではなく、インフルエンサーが、その商品を使って、どう楽しんでいるかを表現することである。共感される投稿の決め手は、人間の内部からあふれる情熱である。どこかの受け売りのような言葉ではなく、いかに「他人ごと」でない「自分ごと」として伝えるかが肝だと言える。
モノの素晴らしさとインスタグラムで流行るかどうかは必ずしもイコールではない。インフルエンサーの心に商品がどれくらい響くかどうかが指標になる。
3,400冊以上の要約が楽しめる