ボストン・カレッジの研究者であるカレン・アーノルドは1980‐90年代に、イリノイ州の高校を首席で卒業した81人を追跡調査した。すると彼らは大学でも非常に優秀な成績を修めていたことがわかった。大学卒業後も同様である。彼らの多くは社会的評価の高い専門職に就き、総じて恵まれた暮らしをしていた。しかし世界を変革したり、世界中の人に感銘を与えたりする者は誰もいなかった。
ではなぜ高校で優等生だった人たちは、一般社会で大きな成功をおさめられなかったのだろうか。理由は2つ考えられる。
第1の理由は、学校が「言われたことをきちんとする」能力に報いる場所だからだ。学力と知力の相関関係はかならずしも高くない。首席たちの多くも「自分はクラスで一番勤勉だっただけで、一番賢い子は他にいた」と認めている。
第2の理由は、高校のカリキュラムが「すべての科目でよい点を取る」ゼネラリストたち向けになっているからである。学校は学生の情熱や専門知識をあまり高く評価しない。ところが一般社会では真逆だ。特定分野のスキルが高く評価される一方で、ほかの分野の能力はあまり問われないことのほうが圧倒的に多い。
学校には明確なルールがあるが、人生となるとそうではない。だから定められた道筋がない社会で、優等生たちはしばしば勢いを失ってしまうのだ。
ではどういう人が成功者になるのだろうか。ここからは偉大なリーダーになる条件を見ていこう。
ハーバードビジネススクールのゴータム・ムクンダは、リーダーを2種類に分けて分析した。
第1のタイプは正規のコースで昇進を重ねた、いわゆる「ふるいにかけられた」リーダーだ。彼らの常識や伝統にならった手法は、どれも似たり寄ったりである。またこうしたリーダーが及ぼす影響力はさほど大きくない。
第2のタイプは、正規のコースを経ずに指導者になった「ふるいにかけられていない」リーダーだ。彼らは異質なバックグラウンドのせいなのか、ことを荒立てずにはいられない。しかし少数だが、このなかから組織の悪しき信念体系や硬直性を打破し、大改革を成し遂げる偉大なリーダーが出てくる。多大なプラスの影響を及ぼすリーダーとは彼らのことだ。
では「ふるいにかけられていないリーダー」はなぜ大きな影響力をもつのか? ムクンダによれば、彼らが他のリーダーと決定的に異なる資質をもつからだという。その正体は普段、ネガティブな性質・欠点だと捉えられつつも、ある特殊な状況下では強みになる「増強装置(インテンシファイア)」だ。
たとえばオリンピック史上最多のメダルを獲得した水泳選手マイケル・フェルプスは、長い上体、短い脚、大きすぎる手足という変わった特徴をもっている。彼はダンスがうまく踊れないし、走るのも苦手だ。しかしこの体型こそが、驚異的な水泳選手になる条件にぴたりと当てはまるという。
ムクンダは増強装置理論を実生活で活かすためには、2つのステップがあると主張する。
第1のステップは自分自身を知ることだ。あなたがルールにしたがって行動するのが得意な「ふるいにかけられたタイプ」なら、まずは成功へ導く道筋を確認しよう。こちらのタイプの場合、明らかな答えや規定のコースがある場所では功績をあげられるが、道筋がないと迷子になってしまうからだ。
逆にどちらかというと規格外で、「ふるいにかけられていないタイプ」はどうだろうか。こういう性質をもっている場合、既存の体制に従おうとしても、成果は限られる。それよりは自分自身で道を切り開こう。
第2のステップは、「自分に合った環境」を選ぶことだ。
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