本書が扱う「健康格差」とは、自己管理能力にかかわらず、社会的な背景に左右されて個人の健康状態に格差が生じている現象だ。もともと病弱な人や高齢者ばかりでなく、その格差はあらゆる世代に広がっている。
例えば、糖尿病はこれまで若い世代には無縁と思われていたが、30~40代の現役世代に患者が増えてきている。その背景にあると考えられるのが貧困だ。長年の生活習慣が引き金となる「2型糖尿病」の患者782名を対象とした実態調査によれば、過半数の世帯年収は200万未満だという。
所得の低さは食生活や生活習慣に現れる。厚生労働省の調査でも、所得が低いほど米やパンなどの炭水化物の摂取量が増え、野菜や肉類が減ることがわかっている。まして非正規雇用であれば、長時間労働を強いられることも多い。結果的に食事の時間が不規則になり、栄養バランスを欠くことになりがちだ。
さらに非正規雇用者は、定期的な健康診断を受ける機会も少ないため、体の異常を早期発見しづらい現状もある。こうして職業や所得によって、現役世代にも「健康格差」が生じている。
もう一つ、現役世代の「健康格差」に影響を与えている要素として本書が取り上げるのは、未婚率の上昇である。
既婚者と比べて未婚者は、大きな健康不安を抱えがちだという複数の調査結果がある。例えば、45〜64歳の未婚男性の死亡率は、同世代の既婚者の2・2倍に上る。精神面でも未婚者は問題を抱えやすく、未婚者の自殺率は既婚者の1・25倍だ。年齢別に55〜64歳に限って見ると、その差は実に2・4倍にもなる。
ただし、未婚女性の場合、既婚者との差はほとんどない。概して女性は、未婚であっても生活全般における自己管理能力が高いためだと見られる。精神面においても未婚女性は、趣味サークルのコミュニティに参加するなどして、孤独を抱えないで済む傾向にある。
乱れがちな食生活と孤独が、男性未婚者の健康を徐々に蝕んでいるのである。
高齢になるにしたがって、独居であることによる健康リスクはますます高まる。全国では7人に1人がひとり暮らしをしているが、近年とりわけ増えているのが中年層や高齢者のひとり暮らしだ。
ひとり暮らしの高齢者は、転倒による骨折などをきっかけに、家に閉じこもりになってしまうことがある。そうなると、周囲とのつながりが薄れ、体の異変に気づいても自分ひとりで抱えて、重症になるまで悪化させてしまうケースも少なくない。頼る家族のいない高齢者が「健康格差」に陥れば、いとも簡単に「命の格差」につながり得る。
人生それぞれの段階に「健康格差」が忍び寄っている現状は、すでに逼迫している日本の社会保障費に追い打ちをかけるだろう。「健康格差」は生涯を通じて徐々に蓄積されていくため、問題が顕在化してから対策を講じようにも、もはや手遅れだ。「健康格差」研究の第一人者である近藤克則・千葉大学教授は、日本社会は「時限爆弾」を抱えているようなものだと指摘する。
前項で所得や雇用形態、家族構成が「健康格差」につながっていることを紹介したが、次に、地域の違いによる「健康格差」を見ていこう。国土が狭く、生活習慣にそれほど大差がない日本においても、地域における「健康格差」がある。
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