日本での中国に関する報道は、中国共産党の動向を不安視する一方、中国人訪日客による消費を歓迎する声も多く、中国や中国人との距離感がますます近くなっていると感じる人も少なくない。
しかし日本の観光地に中国人が増えたと認識している日本人が多い一方で、なぜ中国人が日本に関心をもち、訪れてくるのかを考察する人はほとんどいない。今後はメディアや日中間を往来する人が、互いの国の日常情報をさらに発信していくべきである。
緊張の走る日中関係において、摩擦や対立を減らすためには、中国人の考え方のみならず、日常にも目を向け、理解を深めていくことが欠かせない。
中国を知る有効な手段として、車窓取材が挙げられる。これは「車に乗って一本の道路をまっすぐに走り、窓の外を見る」というやり方で、中国駐在が長い商社マンや中国人ジャーナリストも実践している。運転手と雑談し、その土地の事情を聞きながら窓の外を見続けることで、人々の暮らしがだんだんと見えてくるのだ。
たとえば日中関係が悪化すると、日本への批判的な言動を取る運転手が増えてくる。中国にいる運転手の態度は、日中関係のバロメーターだ。運転手に限らず、日本人を嫌う中国人は、日本人と直接話したり、日本に行ったことがなかったりする人が多い。
だが中国人の訪日観光客が増え、日本を知る人が多くなったことで、日本を無条件で嫌う人は少しずつ減ってきている。今後さらに日本に触れた人の情報発信が広がれば、日本人への悪感情を募らせる中国人も減少していくのではないかと考えられる。
車窓取材と並び、現在の中国を知る手立てが書店だ。
1993年開業の「万聖書園」は、北京大や清華大の近くにあり、多くの学生や知識人が足繁く通う学術書店である。もちろん日本関連書籍も置かれている。とくに中国語訳された日本の小説が多く、村上春樹や東野圭吾の小説が棚の大半を占める。日本書籍は、米国、フランス、英国に並び人気ジャンルで、日本書籍の需要はさらに増える見込みだ。
また1981年に出版された『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子著)も記録的なロングセラーとなっている。2013年に中国で翻訳版が出版されると、いまや日本の発行部数を抜くほどの人気を博すようになった。
『トットちゃん』人気の背景には、中国の教育制度に対する不満と、子供の個性を尊重する教育環境への強い憧れがあると見られている。読者には教員やその教え子、教育に熱心な母親が多い。中国の読者はこの作品から、「周囲に言われて自分を変えるのではなく、自分の思いを大切にして生きてもいい」というメッセージを感じているそうだ。
少しずつ日本に好意をもつ中国人が増える一方で、反日・抗日デモの動きはなかなか収まらない。2012年8月中旬、亮馬橋地区にある日本大使館近辺で反日デモが始まった。尖閣諸島に上陸した香港の団体メンバーが逮捕されたことが発端だ。8月末に丹羽宇一郎駐中国大使(当時)の公用車が襲撃される事件が発生すると、9月11日に日本政府が尖閣諸島を国有化したことで、デモはさらに激化した。
このデモのピークは国有化後の最初の週末、9月15日から18日だった。とくに15日は、北京や上海、重慶など50都市以上で過去最大規模のデモが起きた。このとき山東省青島市などでは、日系スーパーが大きな被害を受けた。青島イオンの窓ガラスや店舗は破壊され、青島市中心部から見て西に位置する黄島区のジャスコ黄島店も、ほとんどのガラスが割られてしまった。
青島イオンは地元学生への奨学金支給や緑化事業など、社会貢献の面でも知られていただけに、関係者は「現地の人に喜ばれる企業として地道に事業に取り組んできた。ただ反日と叫びたたき壊す行為が愛国なんてまちがっている」と声を荒げている。
過激な行動を当局が許容すると、生活に不満を募らせた一部の若者や中高年が反日・抗日を掲げ、日系企業で働く中国人との間で混乱や対立を引き起こす。しかも日本人は中国に対するイメージをますます悪化させてしまう。反日デモは結局、中国人自身も傷つく結果を招くのである。
こうした国内事情や日中関係を報じる中国メディアはどんな体制なのだろうか。
中国メディアの記者は当局に報道内容を制約され、自由がないと思われがちだ。しかし制約を抱えながらも「真実を伝えたい」と考えている人はいる。それは海外取材も例外ではない。
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