脳外科医からベンチャー経営者へ

ぼくらの未来をつくる仕事

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ぼくらの未来をつくる仕事
出版社
かんき出版

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出版日
2018年01月22日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

日本の医療がいかに危機的な状況にあるか、実感したことはあるだろうか。もちろん日本には国民皆保険制度が整っており、質の高い医療を低コストで受けられることは国際的に高い評価を受けている。しかし、医療費は財政を圧迫し、今後立ちいかなくなる可能性が高い。そんな課題が山積みな医療の未来を変えるべく立ち上がったのが、本書の著者、豊田剛一郎氏である。

豊田氏は脳神経外科医として勤務した後、アメリカでの病院勤務、マッキンゼーでのコンサルタントを経て、2015年に株式会社メドレーに代表取締役医師として参画した。メドレーのミッションは、「医療ヘルスケア分野の課題を解決する」。異色のキャリアをもつ豊田氏には、一貫して「医療の未来のために働きたい」という強い想いがあった。

患者の命を救おうと懸命に治療しても、「患者も家族も幸せになっていない」。そんな状況に豊田氏は幾度となく直面してきた。そのたびに医療の目的と、医療がめざすものについて考えさせられてきたという。そんな彼がメドレーに参画した背景、新たに立ち上げた遠隔診療アプリに込めた想いを、等身大の言葉で綴っている。豊田氏のキャリアの軌跡をたどるにつれ、随所で感じられる彼の仕事哲学に、心が奮い立たされる一冊だ。

生涯をかけて自分は何に命を費やしたいのか。誰の、どんな未来をつくるために働きたいのか。医療の課題について興味がある方はもちろん、情熱を注げる仕事を模索している方にもぜひお読みいただきたい。

ライター画像
松尾美里

著者

豊田 剛一郎 (とよだごういちろう)
株式会社メドレー代表取締役医師。1984年東京生まれ。東京大学医学部卒業後、聖隷浜松病院で初期臨床研修を終え、NTT東日本関東病院脳神経外科に勤務。2012年に渡米しChildrenʼ s Hospital of Michiganに留学。米国での脳研究成果は国際的学術雑誌の表紙を飾る。
脳神経外科医として充実した日々を送る一方、日米での医師経験を通じて、日本の医療の将来に対する危機感を強く抱き、医療を変革するために臨床現場を離れることを決意。2013年に世界的な戦略系コンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニーへ。
マッキンゼーでは主にヘルスケア業界の戦略コンサルティングに従事。同時期に、Facebook上で小学校時代の同級生で株式会社メドレーの代表瀧口浩平と再会し、“未来ある日本の医療をつくる”ことで意気投合。
2015年2月より株式会社メドレーに共同代表として参画し、代表取締役医師に就任。「医療ヘルスケア分野の課題を解決する」をミッションに掲げるメドレーにて、遠隔診療を可能にするオンライン診療アプリ「CLINICS」、医師たちがつくるオンライン医療事典「MEDLEY」など、納得できる医療の実現に向けたサービスを立ち上げる。
現在、スタートアップで最も注目される経営者の一人。本書は初めての著書である。趣味はサッカー。

本書の要点

  • 要点
    1
    豊田氏は「医療の未来のために働きたい」という決意のもと、脳神経外科医からマッキンゼーのコンサルタントへ転身し、瀧口浩平氏との再会からメドレーへの参画を決めた。
  • 要点
    2
    その背景には、日本の医療財政の悪化や、病気に対する予防意識の希薄さ、納得感のある医療の実現の難しさといった、山積する医療の課題を解決したいという思いがあった。
  • 要点
    3
    豊田氏は、医療リテラシー向上をめざす、オンライン医療事典MEDLEYや、オンライン診療を支援するアプリCLINICSを立ち上げ、その活用領域が急速に広がっている。

要約

キャリアの転機、医者からマッキンゼーへ

医療を救う医者になる!
SARINYAPINNGAM/iStock/Thinkstock

豊田氏は、高校時代に芽生えた、脳という臓器を研究したいという興味に突き動かされ、脳神経外科医の道を志した。研修医の頃は、週に2回は当直をしており、36時間ほどの連続勤務は日常茶飯事だった。しかし、社会人1、2年目のうちに「患者さんのために一生懸命働いて、自分も共に成長する」という経験を積んだことが、財産になっているという。

そんな豊田氏が、コンサルタントという選択肢に興味をもつようになったのは、NTT東日本関東病院で働いていたときの上司、木村俊運(としかず)先生にかけられた言葉だった。「僕がいま30歳だったらマッキンゼーに行く」。

当時、豊田氏は日本の医療が変化する必要性を感じながらも、具体的なアクションはとれていなかった。この言葉を機に、コンサルタントや病院以外のキャリアについて調べるうちに、「もっと外の広い世界から医療を変える道があるのではないか」という気持ちが強まっていった。

とはいえ、日本で3年半の医師経験しか積んでいないのに時期尚早ではないか。そんな懸念を抱いていた豊田氏に木村先生は、さらに背中を押してくれた。「もし医者を辞めるのなら、十字架を背負う前に医者をやめたほうがいい」。

医療現場を離れる決意をするにあたり、もう一人背中を押してくれたのが、当時の脳神経外科の部長で、豊田氏が学生時代から慕っていた森田明夫先生だった。医師をやめようと思っていることを相談したときに、先生はこう言った。「医療を救う医者になりなさい」。これが豊田氏の人生を大きく変えることとなった。

医療の現場で感じた、日本の医療の疑問点

日本の医療財政が破綻してしまう

そもそも豊田氏が日本の医療に違和感を覚えたきっかけは何だったのか。病院には、脳卒中で救急搬送される患者が後を絶たない。脳卒中の原因として、高血圧や糖尿病、タバコなどが知られている一方で、その治療はおろそかになっているのが現状だ。

日本の医療は国民皆保険制度を採用している。一人当たりの保険負担を減らしながら、誰でも時と場所を問わず、手厚い医療が受けられるという素晴らしい制度だ。一方で、人々が病気の予防意識をもちづらいという弊害もある。厚生労働省の発表によると、2015年にはおよそ42兆円のお金が医療に使われていたという。制度を維持するには、国全体で予防への意識を高めることが欠かせない。

今後、高齢者の増加とともに医療費が増大することは明白である。しかも、医療費の負担の内訳を見ると、保険料は全体の5割、患者自己負担は1割にすぎず、残りの4割は税金で賄われている。このことから、日本の医療財政は破綻してしまうという声も上がっている。まさに医療保険のあり方自体が問われている。

納得感のある医療を実現させるには?
Purestock/Thinkstock

もし患者が病院に来なくなれば、医者はその人のために何もできなくなる。それが医療現場の課題の1つでもある。例えば、厚労省のデータによると、生活習慣病を患う50代男性の約半数が、命に関わる病気を起こす確率が高くなるにもかかわらず、治療をせず放置しているという。治療がなされるべき人が、結局はさらに悪化した状態で病院に来るのであれば、早めの治療開始が望ましいのは明らかだ。

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要約公開日 2018.02.02
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