老人の取扱説明書

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SBクリエイティブ

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出版日
2017年09月15日
評点
総合
4.3
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

世界に先駆けて超高齢社会へと突入した日本。高齢者による運転ミスや交通事故が連日ニュースでも取り上げられ、なんとなく高齢者が「悪者扱い」されている空気を感じる場面もある。

しかし高齢者は、家族や職場などにいる身近な存在だ。そして誰もがいずれ行く道でもある。「老人はガンコで人の言うことを聞かない」など、単なる思い込みやすれ違いで人間関係が悪くなってしまっては、お互いに生きにくい。「なぜ私は広い心で年老いた家族に接することができないのだろう」と気に病む人も少なくないだろう。

たしかに高齢者の行動にはイライラさせられるものもあるかもしれない。だが人の体が老化によってどのように変化していくのか、高齢者の体がどのような状態なのかがわかれば、そのイライラもかなり収まるはずだ。

年齢を重ねると、若い頃には想像もできないくらい、大きな変化が自分の身に起こるようになる。朝食の一場面を切り取っただけでも、いくつもの老化現象が見え隠れする。本書で語られる事例は、少なからず私たちに衝撃を与えるにちがいない。

高齢者とそうでない人とでは、まったく違う現実を生きている。このことを超高齢社会の真っただ中にいる私たちは、もっと自覚すべきではないだろうか。一見するとすばらしいサービス内容でも、高齢者目線だと話は違うかもしれない。コミュニケーションは、まず相手を知るところからはじまるのだ。

ライター画像
金井美穂

著者

平松 類 (ひらまつ るい)
医師/医学博士。
愛知県田原市生まれ。昭和大学医学部卒業。
現在、昭和大学兼任講師、彩の国東大宮メディカルセンター眼科部長、三友堂病院非常勤医師・眼科専門医・緑内障手術機器トラベクトーム指導医として勤務している。のべ10万人以上の老人と接してきており、老人が多い眼科医として勤務してきたことから、老人の症状や悩みに精通している。
医療コミュニケーションの研究にも従事し、シニア世代の新しい生き方を提唱する新老人の会の会員でもある。
専門知識がなくてもわかる歯切れのよい解説が好評で、連日メディアの出演が絶えない。NHK『あさイチ』、TBSテレビ『ジョブチューン』、フジテレビ『バイキング』、テレビ朝日『林修の今でしょ! 講座』、TBSラジオ『生島ヒロシのおはよう一直線』、『読売新聞』、『日本経済新聞』、『毎日新聞』、『週刊文春』、『週刊現代』、『文藝春秋』、『女性セブン』などでコメント・出演・執筆等を行う。

本書の要点

  • 要点
    1
    人の五感は年とともに衰える。このことが高齢者と非高齢者双方にとって、多くのトラブルを生んでいる。
  • 要点
    2
    姑が嫁の話を無視するのは、若い女性の高い声が聞き取りにくくなるためである。
  • 要点
    3
    高齢者が子どもたちの声にイライラするのは、一定音量以上の高い声が不快に感じるからだ。
  • 要点
    4
    周囲の人間が「ムリをさせないように」高齢者からやることを取り上げてしまうと、刺激が減って認知症になってしまうおそれがある。
  • 要点
    5
    日本の信号機はそもそも高齢者にとって不親切につくられている。

要約

変わりゆく体

変わる朝食の風景
ImageDB/iStock/Thinkstock

高齢者の困った行動について見ていく前に、まず私たちの体の変化について確認しておこう。

普段の朝食の風景をイメージしてほしい。

朝起きて、トースターでパンを焼く。「チン」と音が鳴り、パンを取り出そうとして、うっかり金属部に手が触れてしまい、「熱っ」と言って手を引っ込める。焼きたてパンの香ばしい香りを感じながら、バターの賞味期限を確認し、パンに塗る。溶けたバターのニオイが食欲をそそり、かぶりつくと、口の中に美味しさが広がった。

この普通に見える朝食の風景が、高齢者になると次のようになる。

朝目が覚めると、時刻はまだ4時。外は真っ暗だ。パンを焼こうとトースターをセットしてしばらく待つ。まだかな? と思い、覗いてみると、パンはとっくに焼けていた。「チン」という音が聞こえず、気がつかなかったのだ。パンを取り出し、ふと手を見てみると、やけどをしていた。焼きたてのパンの香りはしない。バターの賞味期限を見ようとしても、字が小さくてよく見えない。まあいいかとパンに塗ってかぶりついたが、ほとんど味がせず、ただ喉に流し込んでいるような感覚だった。

五感の衰え

私たちの五感、すなわち「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」は、年齢が上がるにしたがってすべて衰えていく。

「視覚」は40代半ばからだんだん老眼になり、60代頃から老眼鏡がないと文字が読みづらくなる。また白内障は50代の半数以上に見られ、80代を超えると99%が白内障だ。明るい所と暗い所が見にくくなるため、夜間運転で対向車のライトがまぶしく感じ、事故を起こす可能性が高まる。

「聴覚」の場合、50代後半から難聴がはじまる。実際80代以上の7〜8割の人が、聴覚に問題を抱えている。高い音が聞こえにくくなるため、電子音を聞き逃したり、複数の音声の聞き分けが難しくなったりする。後ろから来る車の音に気づかず、轢かれそうになるのもこのためだ。

「嗅覚」の機能は60代以降に低下し、70代から顕著となる。嗅覚と味覚はお互いに関連しているため、嗅覚の機能低下は味覚障害を引き起こす。

「味覚」の衰えは60代からはじまる。塩分を摂りすぎてしまったり、味がわかりにくくなるので食欲が減退したりする。

「触覚(温痛覚)」は、50代から低下し、70代から顕著となる。手の感覚が弱まり物を落としやすくなる。また温度感覚も鈍くなるため、やけどをしても気づきにくい。

【必読ポイント!】 高齢者トラブルの定番

嫁の話は聞こえないふり?
Toa55/iStock/Thinkstock

Aさんが正月、旦那の実家に帰ったときのことだ。食事の後片付けの最中に、姑の目の前にあった茶碗を取ってもらおうと声をかけた。「すみません、そのお茶碗取っていただけます?」しかし姑は無反応。

ところがそのすぐ後に旦那が「母さん、水ようかんあるけど食べる?」と話しかけると、「あ、食べる」と姑は即答した。Aさんのほうが姑に近く、大きな声で話したのにもかかわらずだ。

このように高齢者に話しかけても、無視されてしまうことがある。するとどうしても「自分は嫌われている」と思いがちだ。しかし本当に話が聞こえていない場合も多い。ではAさんの声は聞こえなかったのに、旦那の声は聞こえたというのはどういうわけだろうか。

これは「難聴」に原因がある。年を取って難聴になると、「ほとんど聞こえなくなる」というより「一部が聞こえにくくなる」。とくに若い女性の声などの高い音は聞きにくくい。そのため娘や嫁の話は無視されやすくなってしまうのだ。

60代以上の人との話し方

50代までは高音も低音も同じ音量で聞こえるが、60歳をすぎると音域によって音の聞こえやすさが違ってくる。高い音は低い音の1.5倍以上の音量で話さないと聞こえない。つまり若い女性の声は、男性の1.5倍の大きさで話す必要があるということだ。この事実を知っていれば、「絶対聞こえているのに、聞こえないふりをして!」とイライラすることもなくなるだろう。

ただし声を張り上げさえすればいいのかというと、そうではない。コツは「低い声で、ゆっくり、正面から」だ。むやみに大声で話しかけても、高齢者は嫌な顔をするだけである。声は「量より質」だ。

相手と同じスピードで話すことも心がけるといい。単語を区切って話すと、さらに聞き取りやすくなるだろう。とはいえ赤ちゃんをあやすような話し方になると、今度は相手をバカにしているように聞こえるかもしれない。注意が必要だ。

大切なのは、正面から話すことである。正面から話すことで、相手はこちらの口の動きがわかるし、真剣に話を聞き取ろうとしてくれる。なおマスクは外して話すほうがいい。補聴器をつけている場合は、聞き取りがしやすいほうの耳に話しかけると伝わりやすい。

子どもの声がうるさいと怒鳴る高齢者

年を取るとキレやすい?
Ryan McVay/iStock/Thinkstock

保育士のBさんが、子どもたちを近所の公園で遊ばせていたときのこと。おじいさんがベンチに座って、貧乏ゆすりをしているのが目に入った。イライラしている様子だ。すると突然「さっきからうるせえんだよ、バカ野郎!」と叫びはじめた。怖くなり、その日は子どもたちを集めてすぐに帰ることにした。

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要約公開日 2018.03.26
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