犬に秋田犬やチワワがいるように、牛にもさまざまな品種がある。
利用法で大きく分けると、牛は「肉用種」と「乳用種」に分類される。肉用種としては早く大きくなり、肉がたくさんとれ、肉質がいいのが望ましい。黒毛和牛はまさにこれだ。
いま日本で飼養される肉用種のうち、97%が黒毛和牛だ。和牛の種類はほかに、「日本短角種」や「褐毛(あかげ)和牛」、「無角和牛」がある。種類によって赤身とサシ(筋肉中の脂肪)のバランス、味わいが異なる。
一方でいわゆる国産牛は、乳用種のホルスタインや乳用種と肉用種をかけあわせた交雑種(F1)がほとんどだ。
以前の日本では、褐毛和牛などもそれなりにいた。そのなかで黒毛和牛が高級化し、他を圧倒するようになったのには歴史的背景がある。90年代の牛肉輸入自由化によって、安い外国産肉が入ってくるようになった。そこで日本の畜産を守るため、赤身中心の輸入肉とすみ分けさせるべく、牛の価値基準を霜降り重視に変えたのだ。
黒毛は他品種に比べ、もっとも霜降り度合いが高い牛だった。また黒毛は歩留まり(1頭からとれる肉)も多く、一番儲かる肉だった。60年代以降、消費者の間でも霜降り肉が好まれるようになった事情もあり、急速に黒毛の生産数が伸びていった。
A5という格付けは、美味しさを表すものではない。歩留まりをあらわすA~C(Aがもっとも評価が高い)、脂肪交雑など肉質等級をあらわす5~1(5がもっとも評価が高い)。これらの組み合わせが、日本食肉格付協会が規定する牛肉の格付けだ。つまりA5とは、肉がたくさんとれて霜降り度合いが最高レベルに高い肉を指している。
食の世界だと香りは油脂、味わいは肉から生まれるとされる。つまりサシが多すぎると、うまみの少ない肉になってしまう。プロの間では、A3くらいの肉が美味しいとささやかれる。しかし食肉市場では、この格付け基準に沿って牛肉の価格が決まる。A5の肉をめざす生産者が多いのもムリのないことだ。
「(牛の品種×えさ×育て方)×熟成=牛の肉の味」。これが著者の考える、美味しい牛肉の方程式だ。
まず牛の品種は重要である。筋繊維の太さやサシの入り方などは、品種や血統により大きく左右されてしまう。
次いで味わいに関わる大きな要因がえさだ。えさの種類は、牧草主体の粗飼料で育てるグラスフェッド、コーンなど穀物主体の濃厚飼料で育てるグレインフェッドに分かれる。牛の食べたものが味につながる。牧草地が少ない日本では後者が主だ。
育て方は放牧と牛舎飼い、または両者の組み合わせである。日本ではほぼ牛舎飼いだ。こうした育成環境に加え、ビタミンAを抑制するかどうか(ビタミンAが不足するとサシが入りやすい)といった判断も、味を決める一要素となる。さらに飼育期間も重要だ。基本的には飼育期間が長いほど、味わいや香りが増すからである。ただしその分コストがかさむため、生産者としては早く出荷したいという葛藤がある。日本の場合、和牛は25-28カ月飼って出荷することが多い。
牛を屠殺したあとの「熟成」というプロセスも、味に大きく関わっている。
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