本書は、伝説のフォーラム「ダボス会議」の模様から幕を開ける。そこに集っているのは、各国の首脳、中央銀行の要職、そして世界の富の半数を握るといわれる、1%のビリオネアなどである。
ビリオネアの正体は、国際金融システムに君臨する一握りのエリートだ。国の経済から金融システムの安定性まで、経済にかかわるあらゆることが、これらのごく少数の人々の判断によってなされている。銀行、ヘッジファンド、中央銀行のトップたちが行う基本的な戦略事項に関する意思決定は、産業や雇用、つまり私たちの仕事や生活に、影響を及ぼしている。
しかし、世界の金融システムを動かしている司令塔があるわけではない。このシステムは、参加者による無数のつながりややりとり、個々の決定によって自己組織化されていく。各意思決定者は、その決定によってシステムの力学に影響を与えるが、システムそのものをコントロールする能力は持っていない。単に、ネットワーク科学の法則に従っているだけである。
こうしたネットワークが金融危機を作り出すこともあれば、それを救うこともある。しかし、金融が実体経済から徐々に乖離し、貧富の差や不平等を拡大させていることもまた、紛れもない事実である。
ネットワークは、「ノード」(線と線の結び目、分岐点、中継点)によって構成される。そして、ノードは「リンク」と呼ばれる経路によってつながっている。各ノードは「優先的選択の法則」によって、最もつながりの多いノードにつながろうとする。つながっている相手の数が多いほど、個々の生存率が高まるからである。
そしてネットワークの中心にある、もっとも多くのつながりを持つノードは、本書のタイトルでもある「スーパーハブ」と呼ばれる。スーパーハブは民間・公的機関をとりしきる立場や、それに近い立場の人を指す。ネットワークの広がりと深さが影響力の源泉であり、それが究極の競争力といえる。
そうしたスーパーハブの大物として、まず名があがるのが投資家ジョージ・ソロスであろう。彼は1930年、ハンガリーのブダペストで生まれた、ユダヤ系アメリカ人だ。ナチスの迫害を逃れ、移民としてロンドン、ニューヨークに渡った。そして、自らの才覚で投資家として巨万の富を築いた。
もちろん、マネーだけではネットワークのハブにはなれない。彼は、自身の投資哲学を深め、思想的リーダー、慈善家への道を歩むことにより、多くの尊敬を集めた。このようにして、ネットワークの通貨と呼ぶべき「ソーシャルキャピタル」を積み上げたのである。
金融システムは、「お金(マネー)」によって成り立っている。マネーを提供するのが銀行の役割だ。金利の設定や資産の購入を通じて、国内に流通するマネーの量をコントロールするのが「中央銀行」である。
中央銀行は、米連邦準備制度(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行など、今日ではほぼすべての国に設置されている独立した政府機関である。その主たる使命は、低インフレで安定した経済成長の実現、金融システムの安定の維持といわれている。
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