みなかみイノベーションの表紙

みなかみイノベーション

群馬県みなかみ町に見る農泊を核とした観光まちづくり


本書の要点

  • 地方の中山間地域として、人口の減少・高齢化など、みなかみ町が直面している問題は深刻だ。

  • たくさんの観光資源があるにもかかわらず、みなかみ町には目玉となるものがなかった。また日帰り観光地と見なされていたのも痛手だった。日帰りでは大きな観光収入が見込めないからである。

  • こうした現状を変えるため、みなかみ町の人々は「農泊」を中心とした「体験旅行」を戦略として組みこみ、展開していった。さらに観光だけでなく、住民たちの暮らしにも目を向けた。谷あいの小さな集落の実態を明らかにし、問題解決をめざしている。

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農泊を中心とする取り組み

「みなかみ町体験旅行」を推進する

Petmal/iStock/Thinkstock

2008年に農水省・文科省・総務省が連携して、「子ども農山漁村交流プロジェクト」を立ち上げた。子どもたちの力強い成長を支える教育活動として、小学校における農山漁村での長期宿泊体験活動を推進することが目的だった。みなかみ町はその受け入れ体制整備地区をめざし、商工会を中心に「教育旅行協議会」を立ち上げた。農業だけではなく、自然観察や林業体験、オリエンテーリング、アウトドアスポーツ、伝統工芸体験など、さまざまなメニューを選べるように調整。2014年からは一般社団法人となり、「みなかみ町体験旅行」として旅行業第二種も取得した。みなかみ町体験旅行を創設したメンバーは、3つの方針を軸にしている。1つ目はグリーン・ツーリズムの町としてのブランドを確立させること。2つ目は経営者の視点をもち、収益をあげること。そして3つ目が、民泊や農業体験の提供を地域産業として定着させ、子どもたちへの継承を可能にすることである。

事業としての「農泊」

みなかみ町体験旅行の創設メンバーである松本亨太さんは、グリーン・ツーリズムを地域の産業に育てあげたかった。だから「組織の収益性ではなく、高齢者が活き活きと長く働ける環境をつくり、農泊提供者を事業主として成立させること」を目標に据えた。また農泊提供者の健康管理のため、町内の病院とも連携。提供者の健康を能動的に管理し、高齢の提供者も安心して働けるサポート体制を整えた。農泊は年を追うごとに拡大し、提供者の家族や周囲の環境も変わっていった。たとえばみなかみ町を離れて生活していた人たちが、子どもを連れて長期間滞在しながら手伝いに来てくれたり、古民家の再生を始めた農泊提供者がいたり、移住希望者が増えてきたりといった変化である。さらに2014年頃から、グリーン・ツーリズム向けの体制整備も加速した。ラフティングや里山探索など、「みなかみ町のよさ」を広めたい仲間たちが町に戻り、グリーン・ツーリズムとの連動メニューの開発に取り組んだ。レクレーションメニューの運営会社は、農泊提供者への提案を活発に行なっており、農泊提供者たちの自覚とモチベーションを高める役割を果たしている。

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イノベーション以前のみなかみ町

県内最大の面積に住人は2万人弱

DONOT6/iStock/Thinkstock

みなかみ町は群馬県の最北部に位置し、三国山脈を挟んで、新潟県の魚沼地方と接している。2005年10月に月夜野町と水上町、新治村が合併。その面積は県内最大で、第2位の高崎市の約1.7倍である。しかしみなかみ町には約7600世帯しかなく、人口も2万人に満たない。さらに65歳以上の老年人口比率が33.1%で、県内でも少子高齢化が進んだ地域とされている。「利根川源流の地」であり、大小多数の温泉やアウトドアスポーツ施設など、観光名所は充実している。ただ個人旅行へニーズが移っているご時世である。団体客を中心としていることや、首都圏からのアクセスにすぐれていることが、日帰り客を増加させ、観光消費額の低下を招いていた。

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要約公開日 2018.04.21
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