本書のテーマは、「ポスト平成のキャリア戦略」である。佐々木氏によると、「平成モデル」は「昭和モデル」の劣化版に近く、その平成モデルですら陳腐化しているという。ポスト平成のキャリア戦略について語る前に、簡単に平成モデルと昭和モデルをそれぞれ振り返っておこう。
昭和モデルは、右肩上がりの経済の中で築かれた。年功序列で、「男は家庭より仕事優先」といった、時代遅れな面もあった。また、敗戦という悲劇を経験したのもこの時代だった。しかし、国民が一致団結して努力した結果が目に見えた、攻めの時代だった。
一方、平成モデルはというと、長期停滞、男女ほどほど分業、ほどほど年功序列というように、何かにつけて中途半端である。また、バブルが崩壊して経済は低迷し、阪神・淡路大震災や東日本大震災などの大災害が起こった。会社というコミュニティの力は弱まり、コスト削減やコンプライアンスなど、守り重視の人が増えた。
こうしてハングリーな昭和から、守りのニーズが高まった平成を経て、今また「攻め」のニーズが高まってきている。
では、ポスト平成の時代においては、どんな人材が「仕事ができる人」とされるのだろうか。スタートアップメディアのNewsPicks編集長を務める佐々木氏は、最低でも3つは得意分野が必要だという。
これまでのメディア業界は分業体制だった。しかし、個人によるメディア運営が可能になった現在では、それが逆に非効率になり得る。得意分野は自動車やIT、金融などの産業領域、動画や写真、デザインといった表現手法、地域の専門性でもいい。3つ以上の専門性を掛け合わせて付加価値を生み出せる人は強い。
これを受けて塩野氏は、「キャリアの掛け算」によりユニークネスを発揮できることの重要性を強調する。例えば、ウェブメディアの経験と自動車業界の人脈を持ち、東南アジアに詳しくて取材もできたら、100人に一人の人材になれる。
また、塩野氏はキャリアについて考える際、「組織固有スキル」と「汎用的スキル」を見誤らないことが重要だと注意をうながす。これまでのキャリアで培ったスキルが、どこでも通用する「汎用的スキル」なら問題ない。しかし、特定の組織内でしか通用しないスキルだった場合、つぶしがきかないからだ。転職を考えるなら、この視点を大事にしたい。
ポスト平成へ移行するに伴い、リーダーとしての評価軸も変化していくと塩野氏はいう。AIやロボットが進化していく世の中では、ヒューマンタッチ(人間味)やハイタッチ(感性)が、より重視されるようになる。そして、言語感覚や言語操作能力が高い人の評価が高くなる。このときに重要なのが「ハングリー&ノーブル」の姿勢だ。ノーブルとは「高潔な気概」を指す。
昭和の時代には、盛田昭夫や本田宗一郎、松下幸之助といったハングリー&ノーブルの手本となる本物のリーダーがいた。だが、現代のビジネスの現場では、ハングリーさに欠けた人が多く、ハングリーな悪人に騙されることも少なくない。また、ノーブルが欠けていると、日本企業の不祥事に見られるような、「会社のためを思って罪の意識なく悪事に手を染める人」になってしまう恐れがある。
次に、リーダーの評価についてはどうか。日米のスタートアップを比較すると、経営者の能力に明らかな差があると佐々木氏は指摘する。中でも著しく差があるのは「ミッションを創る力」である。
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