美大のハーバードといわれるロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(通称RISD、リズディ)は、「クリティカル・メイキング」と呼ばれる独自の教育プログラムを提供している。RISDの教育カリキュラムは、イノベーションや独創性を引き出す内容になっている。そのため、学生たちは表現力を高め、新しい考え方ができるようになる。急速な技術の進展や環境の変化により、これまでの方法では対処できない課題が出てきているが、RISDの教育カリキュラムは、効果的な対策を導きだせる人材の育成につながっている。
学生たちは、専攻を決める前にファンデーション・スタディーズという準備コースで、必要な基礎を学ぶ。准教授を務めるレスリー・ハーストの考えはこうだ。学生たちが創造的に考え、批判的な判断をするには、創作のレシピを提供するのではなく、芸術作品の特徴や歴史、哲学、言語、技術などを本質まで煮詰めていくよう促すことが重要となる。
アートとデザインは関連性と応用の判断から成り立つ。関連性とは、個人の作品と人生の他の側面とを比較して判断する能力である。これは、自己批判とクリエイティブ・シンキングにつながる行為だ。フレッシュな視点をもって探索することと同じくらい、時事問題や異なる文化の伝統から創造的な探究の基礎を見つけることも重要である。素材の特性を活かすには、特別な扱い方が必要になるということを理解する。そのうえで、応用には継続的な基準と変更可能な基準があることを受け入れることが創造性の発揮につながる。
また、新しい発見を手に入れるためには、さまざまな領域に対する関心と、研究分野を橋渡ししなければならない。そのため、学生たちは、ファンデーション・スタディーズの初期からスケッチブックを持って街に出かけていく。そして、見る、聞く、匂いを嗅ぐなどの行為を通じて観察した記録をまとめ、「今、ここにいる」ことの意味を表現する課題が与えられる。こうした学びを経て、学生たちは教えられることと学ぶことは別物であると理解していく。
リベラルアーツの学部長ダニエル・カヴィッキは、アートとデザイン作品の「テクスト」と「コンテクスト」について解説する。私たちは、一般的にテクストの中に意味を発見する。テクストに基づく思考は、作品に定められた一貫性を重視する。一方で、コンテクストは「ともに結合すること」を意味しており、一貫性の事実ではなく、無制限に結びつける行為を重視する。つまり、よりプロセス的に作品を扱う。
カヴィッキは、「テクスト」と「コンテクスト」の関係を理解することは、アートとデザインの作品制作に欠かせないと指摘する。物事と社会的・歴史的な環境との結びつきを掘り下げた作品の一つが、1863年に行われた、リンカーンによる「ゲティスバーグ演説」をモチーフにした、RISD卒業生たちの制作したアニメーションだ。彼らは、アメリカ史への深い関心と、モーショングラフィックスや編集技術により、戦没者の追悼や南北戦争で荒廃した国土、リンカーンの決意を促した社会背景を説明した。古くからよく知られ、すでに分析しつくされた演説に命を吹き込んだ作品といえる。
RISDで重要視されるドローイングとは何か。大学院の研究科長であるパトリシア・C・フィリップスによると、ドローイングとは、客観的に描かれた線と、マークによる象徴システムを用いて、緻密な観察と計画によって対象を模倣しようとする表現だという。同時に、ドローイングは開発ツールであり、即興的、あるいは高度に構造化された思考をマッピングする方法でもある。
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