友だち幻想

人と人の〈つながり〉を考える
未読
友だち幻想
友だち幻想
人と人の〈つながり〉を考える
著者
未読
友だち幻想
著者
出版社
出版日
2008年03月10日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
3.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

人気番組「世界一受けたい授業」で人気芸人が推薦した『友だち幻想』。約10年前に書かれた本書が、なぜ今、話題となっているのか。その理由は「親しい人との関係は大切。でもそれを時々、重苦しく感じてしまう」という、世代を越えた悩みを解きほぐし、新たな視点を与えてくれるからかもしれない。

「みんなで仲良く」。「私を丸ごと受け入れてくれる人がきっといる」。心のどこかで信じていたいと思う、こうした考え方は、実は「幻想」にすぎないというと、冷たく聞こえるかもしれない。だが、著者の考え方を読み解いていくと、人間関係のモヤモヤが解消される糸口が見えてくるだろう。

他者と良い関係を築き、社会に適応するために必要な能力を、「ソーシャルスキル」と呼ぶ。要約者は、こんな大事なスキルを、なぜ学校で教えないのだろうかという疑問を、長年抱いていた。本書は、そのソーシャルスキルの土台を築くうえで、大きな助けになってくれる。人づきあいのルールや作法を知るだけで、こじれた関係を修復しやすくなるし、より豊かな関係を築けるはずだ。

社会学者として、そして学生たちとふれあってきた一教師として、著者は、現代社会に求められている「親しさ」を捉え直すための「見取り図」を描き出す。現実に寄り添った人間関係論は、大人、子どもを問わず、しなやかに生きるための処方箋に他ならない。子育てや教育に関わる方はもちろん、人間関係やつながりにモヤモヤを感じるすべての方にお読みいただきたい。

ライター画像
松尾美里

著者

菅野 仁(かんの ひとし)
1960年宮城県仙台市生まれ。89年東北大学大学院文学研究科社会学専攻博士課程単位取得。東北大学文学部助手などを経て、96年宮城教育大学教育学部助教授、06年より同大学教授。16年より同大学副学長(学務担当)を兼任。専攻は社会学(社会学思想史・コミュニケーション論・地域社会論)。G.ジンメルやM.ウェーバーなど古典社会学の現代的な読み直しをベースとし、「"自分の問題"として『社会』について考えるための知的技法の追究」をテーマに、考察を続けている。
著書に『18分集中法――時間の質を高める』(ちくま新書)、『教育幻想――クールティーチャー宣言』(ちくまプリマー新書)、『ジンメル・つながりの哲学』(NHKブックス)、『愛の本――他者との『つながり』を持て余すあなたへ』(PHP研究所)、共著に『社会学にできること』(ちくまプリマー新書)、『コミュニケーションの社会学』(有斐閣)、『いまこの国で大人になるということ』(紀伊國屋書店)、『はじめての哲学史』(有斐閣)など。2016年、没。

本書の要点

  • 要点
    1
    「同質性」を前提とするムラ的な共同体の作法から脱却し、人と人との距離感を見つめ直すことが重要だ。今後は、気の合わない人とでも一緒にいる作法が必要となる。ポイントは、「同質性」から「並存性」への発想転換だ。
  • 要点
    2
    相手が他者であるという本質的な性質を理解するところから、真の親しさが生まれる。
  • 要点
    3
    ルール関係とフィーリング共有関係を区別して、使い分けができることが、大人への一歩となる。

要約

人は一人では生きられない?

昔とは違う、「親しさを求める作法」

人は一人でも生きていけるのだろうか。現代なら経済的・身体的条件がそろえば、一人で生きていくことも可能だろう。しかし、人は本質的に他者とのつながりを求める生き物だ。そして、つながりを求めるがゆえに、かえって傷ついたり、人を追い詰めたりするような状況に陥ることがある。

その理由は、「ムラ社会」の時代に培われた「親しさを求める作法」に、私たちが今なお愚直に従っているからだ。「同質性」を前提とするムラ的な共同体の作法では、多様で異質な生活形態や価値観をもった人々が共生する、いまの時代にフィットしない面が出てきてしまっているのだろう。この伝統的な作法から脱却し、人と人との距離感を見つめ直すべきときがきているのではないか。

今後求められるのは、気の合わない人とでも一緒にいる作法、新たな「親しさを求める作法」を身につけることだ。人と人とのつながりに関する、こうした発想転換が本書の重要なテーマとなっている。

幸せも苦しみも他者がもたらす

人がつながりを求めるとき

人とのつながりの中に、人間は何を求めているのか。一つは、人間関係を築くことで、利得や利益を得ようとする場合だ。お金儲けや出世のためというように、あくまで、目的はつながりの「外」にある。

これに対し、人とつながること自体が目的となる場合が、もう一つのケースである。損得を越えた、親子関係や「この人といると楽しい」と感じさせる友人関係が、これに当てはまる。後者の、つながり自体が目的となるような人間関係を、本書では「交流」と表す。

幸福をもたらす「二つのモメント」
Martinan/iStock/Thinkstock

人とのつながりを求めるのは、幸せになりたいと思うからだ。心からの交流を求めることで、自分と周囲の人が幸せを感じられる。これこそが生きることの一番の核となっているのではないか。

幸福の具体的な形は人それぞれであるが、本質的には、次の二つのモメント(契機)に絞られる。一つ目は「自己充実」というモメントである。「これは自分に向いている」「やっていて楽しい」と思えることに、自分の能力を最大限発揮できている場面だ。これは「自己実現」のモメントといってもよい。

二つ目は、「他者との交流」というモメントだ。交流から得られる歓びは、さらに「交流そのものの歓び」「他者から承認される歓び」に分けられる。「交流そのものの歓び」とは、とにかく一緒にいるだけで楽しい、心地いいというように、つながりそのものがもたらしてくれる幸福感である。また「他者から承認される歓び」は、社会的関係の中で、自分の活動や存在自体が認められるという、この上ない歓びだ。

このように、幸福を語るときの大事な核は、この二つのモメントに集約される。

他者の二重性

これまで述べてきた「他者」とは、自分以外のすべての人間を指す。そのうえで、著者は次のような提案を投げかける。「他者は、自分とは違う考え方や感じ方をする他の人間」。そう考えたほうが、人とのつながりをめぐる複雑な問題がうまく解きほぐせるかもしれない――。

他者は、「見知らぬ他者」と「身近な他者」に分けられる。いくら親しくて信頼できる「身近な他者」であっても、自分が知らないことがあるし、自分とは違う性質をもっている。これを「異質性」と呼ぶ。そして異質性こそが、あらゆる人間関係を考える際の大前提になる。相手が他者であるという本質的な性質を理解するところから、真の親しさが生まれる。

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要約公開日 2018.04.15
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