ヴァイッド・ハリルホジッチが就任直後から重要視していたものは3つ、「メンタル」「タクティクス」そして「デュエル」だ。メンタルを強くもち、タクティカル(戦術的)にデュエルをしかける。そうすれば「どんなに強いチームに対しても、勝つことができる」というのが、ハリルホジッチの考えだった。
ただしこのうち「デュエル」については、日本では正しく理解されていない向きがある。ハリルホジッチのいう「デュエル」とは、単なる1対1を意味しない。それはあくまでも「戦術的」におこなわれなければならない性質のもの(=「戦術的デュエル」)なのだ。
日本代表でこの「戦術的デュエル」がきわめてうまく機能したのが、2017年8月31日のオーストラリア戦だ。この試合でハリルホジッチの率いる日本代表は、オーストラリア代表の戦略を正確に見抜き、それを破壊するための「戦術的デュエル」を実行。戦略的な優位性を得た日本代表は、見事この試合に勝利した。
ハリルホジッチのプランには、「相手の長所や短所に戦術的な対応をおこなう」以上の強みがあった。「フィールド上のどのエリアを、どのような方法で占有するか」「勝敗を決定づけるプレーのため、占有したエリアをどう活用するか」といった、「エリア戦略」の洞察・選択・活用が、非常にうまいのだ。
ハリルホジッチ以前の日本代表は、このエリア戦略に難を抱えていた。たとえば2010年のW杯を戦った岡田武史の場合、結果的には占有をめざすエリアが高いか低いかの「どちらか」に偏っていた。だから取りうる戦術や攻撃手段も「パスワークによる崩しとショートカウンター」か「ロングカウンター」の「どちらか」に限られてしまったわけだ。
その反省を踏まえて就任したアルベルト・ザッケローニは、ミドルゾーンを戦略的に占有するサッカーを志向し、2014年のW杯を戦った。これはある程度うまくいった。だが逆に「ミドルゾーンでインテンシティ(強度)高くボール奪取可能なサッカー」しかできなくなってしまい、ミドルゾーンを専有できる場合は強豪国とも互角に戦えるものの、ミドルゾーンの優位性が得られない場合はその脆弱性が目立つ結果になった。
ハリルホジッチに求められたのは、これまでの日本サッカーの遺産を継承しつつ、「多様なエリアを占有可能な戦略」「状況に応じエリア戦略を変更できる柔軟性」をもたらすことだと分析できる。そしてそれは実現しつつあったのだ。
「戦術的デュエル」と「エリア戦略」の関係を明確にするには、「ボールゲーム」としてのサッカーの構造・特異性について、あらためて考察する必要がある。
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