世の中には食と健康に関する情報があふれている。だが残念なことに、国内で出回る情報の質は驚くほどひどい。玉石混交な情報に惑わされないために、科学的根拠(=エビデンス)にもとづいた、本当に健康になれる食事を理解するべきだ。
数多くの信頼できる研究によって、本当に健康によいと考えられる食品は、次の5つであることがわかっている。(1)魚、(2)野菜と果物、(3)茶色い炭水化物(詳しくは後述)、(4)オリーブオイル、(5)ナッツ類である。
逆に健康に悪いとわかっているのは、(1)赤い肉(牛肉や豚肉)と加工肉(ハムやソーセージ)、(2)白い炭水化物、(3)バターなどの飽和脂肪酸、以上の3つだ。
「茶色い炭水化物」というのは、玄米や蕎麦、全粒粉を使ったパンなど、炭水化物のうち精製されていないものを指す。一方の「白い炭水化物」とは、精製された白米、うどん、パスタ、小麦粉を使った白いパンなどである。
炭水化物と糖質は同義として扱われることが多い。しかし厳密にいうと、糖質と食物繊維を合わせたものが炭水化物である。茶色い炭水化物には食物繊維が多く、白い炭水化物には少ない。極限まで食物繊維をなくしたものが砂糖だ。白米は砂糖とほぼ同じ性質をもったものなのである。
健康を保つ食生活の秘訣はシンプルだ。健康に悪い食品を、健康によい食品に置き換えればいい。たとえば牛肉・豚肉・白米の摂取を減らし、もっと魚や野菜を食べるようにすることだ。
エビデンスをもとに単純化して考えると、すべての食品は5つのグループに分けられる。健康によいことが複数の研究で明らかになっている食品をグループ1とし、健康に悪いことが複数の研究で示されているものをグループ5としよう。ひょっとしたら健康によい、もしくは悪いことが少数の研究で示唆されている食品は、それぞれグループ2と4となり、健康へのメリットもデメリットも報告されていない食品はグループ3に分類される。このうちメディアで取り上げられる「体によい食品」のほとんどはグループ2だ。そうしたエビデンスが弱い情報に一喜一憂しても意味はない。
エビデンスについてもう少し詳しく述べよう。医学研究は「ランダム化比較試験」と「観察研究」に大別される。前者は研究対象を2グループに分け、片方のグループにだけ健康によいと思われる食品を摂取してもらう方法である。一方で観察研究とは、ある集団における食事に関するデータを集め、特定の食品を多く摂取しているグループとそうでないグループを見つけて分析する手法だ。
一般的にいうとランダム化比較試験のほうが、エビデンスは強いとされる。しかしさらに強い「最強のエビデンス」をもつのが、複数の研究結果をとりまとめた「メタアナリシス」と呼ばれる手法で導かれた結果である。なお当然のことながら、観察研究のメタアナリシスよりも、ランダム化比較試験のメタアナリシスのほうがエビデンスは強い。
今後も「エビデンス」という言葉を用いる、あやしい情報や商品が増えていくだろう。その際の判断材料として、エビデンスには強弱さまざまなレベル差がある点に留意するといい。
食べ物には、肉や野菜といった「食品」と、リコピンや糖分といった「成分」という、2通りの考え方がある。だが「健康的な食事」という観点で見ると、成分はさほど重要ではない。食品や食生活全般に注目したほうが有益である。
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