ワシントン州の牧師、ボブ・ムーアヘッド氏は、「現代の矛盾」というエッセイのなかで次のようなことを書いている。「私たちは高度に発達した文明のなかで生きている。だが、おかしなことに、巨大なビルや広い道路を作ったにもかかわらず、私たちの視野は狭くなり、便利な世の中になったにもかかわらず、私たちは時間を失った」(一部抜粋)。
朝すっきりと目覚められず、重い足取りのまま会社へ行く。集中力のないまま仕事をこなし、適当な食事で昼食を済ませる。一日の仕事を終えたら、ぐったりと疲れ切った体で帰宅し、なんとか眠りにつく――。こんな現代人は少なくないだろう。
住みよい環境になったにもかかわらず、幸福からほど遠い人生を送っている人たちの多くは、その原因が自分自身にあると考えている。だがその原因の多くは自分自身の不注意や意志の弱さ、気弱な性格ではなく、現代特有の「文明病」に由来している。
現代社会に起因する特有の病気や症状を「文明病」という。その典型的な例が「肥満」だ。現代に肥満が蔓延しているのは、昔よりも社会が豊かになったからに他ならない。
著者は「進化医学」という観点から、その解決法を探っていく。進化医学とは、ダーウィンの進化論と最新医学の知見を組み合わせた学問で、「ダーウィニアンメディスン」とも呼ばれる。
人類はわずか1〜2万年前に農耕生活へ移行するまで約600万年ものあいだ、狩猟採集生活を営んでいた。古代ではカロリーは非常に貴重な資源だったので、人類は自然と高カロリーな食事を好むように、みずからの脳を進化させた。だが飽食の時代となると、今度は高カロリーな食事を好む脳をうまく調節できず、それが肥満につながっている。
ようするに肥満の原因は意志の弱さでも何でもなく、人類の進化と現代社会のミスマッチにあるといえる。意志の力だけで「肥満」に立ち向かっても、時間のムダになりかねない。
著者が進化医学に興味をもったのは、現代病と進化論の関係を説いたミシガン大学のランドルフ・ネシー博士の有名な論文を読んだときだった。そのころ出版社の社員として不眠不休で働き、食生活はコンビニが中心の不健康な生活を送っていた著者は、体調を崩しがちで、仕事のパフォーマンスも低下の一途をたどるばかりだった。
そこで一念発起し、進化医学のアイデアを試すことにした。自分の脳と体を最適化して、自分の遺伝子がもつポテンシャルを最大限まで引き出すことをゴールとしたのだ。ベースとなったのは、旧石器時代の食事法という意味をもつ「パレオダイエット」である。半年ほどで驚くべき変化が現れた。体重は半年のうちに13kg減少し、体脂肪も35%から12%に激減。二重あごは解消し、筋肉もついた。なにより嬉しいことに、集中力と生産性が飛躍的に改善した。
現代人の不調の原因を探るうえで、「文明病」というアイデアは非常に有効である。まず自分が抱える問題のどこに遺伝的ミスマッチがあるのかを特定し、次にミスマッチを引き起こしている環境を、自分の遺伝的特徴に適したものへ修正していく。この2つのステップを踏むことで、現代人にありがちな不調のほとんどは解決できる。
本書では現代人が抱える問題を「炎症」と「不安」の大きく2つの要素に分類し、それぞれの対処法について検討していく。
2016年に慶應義塾大学医学部のチームが調査したところ、100歳を超えてなお脳や体のパフォーマンス低下が見られないスーパー高齢者は、体の炎症レベルが非常に低いことがわかった。これは逆にいうと、
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