日本の小中学校でアンケート調査を行ったところ、「人の前で話すことが嫌い」と答えた子どもは、中学3年生では70%にのぼった。ほとんどの日本人が、人前で話すのが嫌いだということだ。
それにもかかわらず、人前で話さなければならない機会は増えている。たとえば、企業の新商品を宣伝する体験イベントやお披露目イベントには、必ず「人前で話す人」がいる。アナウンサーが担当することもあれば、予算を節約するために広報担当が司会をし、製品担当が製品を説明するというパターンもある。
「人工知能に仕事を奪われる」という話もあるが、AIが冠婚葬祭の挨拶をすることはないだろうし、ラジオパーソナリティがAIに仕事を奪われることもないだろう。だから、デジタルの時代であっても、人前で話す機会はなくならない。その一方で、人前で話すことが苦手な人は多い。人前で話すことが得意であれば一歩リードでき、仕事の幅は広がり、人生は豊かになるだろう。
トークにおいて大事なのは、「人前で話すときはこうすべき」という思い込みを捨てること、選択肢を増やすこと、そしてトレーニング方法を覚えることだ。
人前で話すことには5つの要素がある。内容、話し方、メンタル、声、見た目だ。ただし、見た目はあまり気にしなくてよい。表情がニコニコしていて姿勢が良く、清潔感がある服装であればよいだろう。視覚へのアプローチは第一印象のみだから、見た目よりも中身が重要だ。
人前で話すときの話し方は、時と場合によって違う。「挨拶」と一口に言っても、結婚式なのかお葬式なのか、仕事の営業なのか、身内相手なのか、聞き手が10人か1000人かによって違ってくる。しかし、コツさえつかんでしまえば、「切り替え」だけでどんな場面にも対応できるようになる。
よくある間違いに、「お手本が間違っている」というものがある。たとえば結婚式の挨拶をする場合に、テンプレート通りの堅苦しい言葉で始めてしまうことが挙げられよう。もちろん間違いではないのだが、書き言葉をそのまま読み上げているために、話す側は話しにくいし、聞く側も意味がわかりにくい。こういった場合は、むしろ自分の言葉でお祝いの気持ちを伝えてしまったほうがよい。そうすると話し手も聞き手も楽になるし、話し手の個性が出る。
頭の中にあるお手本を一度捨てて、自分らしいトークを目指そう。人前だからと、別の自分を演じる必要はない。
では、どのように話の内容を考えればよいのか。
著者がすすめるのが、テンプレートを応用する「台本書き換え戦術」だ。書き言葉が多くて読みづらく聞きづらいものを、しゃべりやすく、伝わりやすい言葉に置き換えてしまうのだ。書き言葉を話し言葉に、難しい言葉をわかりやすい言葉に変換すればよい。
結婚式の挨拶であれば、「誠に」は「本当に」に、「ご両家ご親族のみなさま」は「ご家族の皆さん」に、「心よりお祝い申し上げます」は「おめでとうございます」に、というように変えてみよう。
難しい言葉を使うと、知識が多い人に見せることができる。しかし難しい言葉は、トークにおいてはリスクとなる。聞いた言葉の意味がわからなくても、聞き手は「どういう意味ですか?」と聞き返しにくいからだ。人前で話すときは極力わかりやすく話すべきだろう。
特に専門用語には気をつけたい。相手が「知らない」ことを前提に話した方がよい。専門用語を使う場合は、「つまり」と言い換えるなどして、意味を説明しながら話すように心がけよう。
構成については、よく「起承転結」が大事だといわれる。しかし、
3,400冊以上の要約が楽しめる