米国製エリートは本当にすごいのか?

Are U.S.-Produced Elites Really Competent?
未読
米国製エリートは本当にすごいのか?
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米国製エリートは本当にすごいのか?
出版社
東洋経済新報社
出版日
2011年07月21日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

日本はなぜこうもリーダーに恵まれないのか。

本書の著者である佐々木紀彦氏はこの問いに対し、日本にはエリートを選抜し、教育し、競争の中で鍛え抜く「エリート育成システム」がないことが原因だと述べている。本書が発行されたのが2011年7月、同年3月に発生した東日本大震災発生後の総理大臣や東京電力社長の姿を見て、日本のリーダーとはかくも情けないのか、と多くの国民が嘆息をもらしたことだろう。そしてその後も、米国など他国で続々と誕生する強烈なリーダーを横目に、日本は優れたリーダーの育成が上手くいっていないことを痛感させられる出来事ばかりが目につく。

そもそも日本人は「エリート」という言葉を使うとき、嫉妬や皮肉を込めて言うことが多い。賢いかもしれないが生意気だとか、実力もないのに特権を振りかざしているだとか、エリートは自分にとって何の有難みもない、むしろ見ていて不快な存在だと認識されがちだからだと思われる。しかし米国では、エリートは歴史を学び、愛国心を持って、国のために働くかけがえのない存在だ。これは米国のエリート育成システムの長所の一つでもある。

ハイライトでは触れていないが、各国の国力をプロ野球球団に例えた解説や、日本では馴染みの薄い「リアリスト」と「リベラリスト」の違いなど、本書で得られる教養はぜひとも身に付けたいものばかりだ。米国を含めた国際感覚を養い、日本流のエリート教育方法を学ぶのに最適の一冊と言えよう。

ライター画像
苅田明史

著者

佐々木 紀彦
1979年福岡県北九州市生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。2009年7月より復職し、『週刊東洋経済』編集部に所属(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

本書の要点

  • 要点
    1
    米国の大学教育の最大の強みは、平均点以上の知的エリートを育てる点にあり、日米の学生の差を生んでいるのは、インプット量、読書量の差である。
  • 要点
    2
    米国のエリートは「経済エリート」「政治エリート」「軍事エリート」の三つに分けられ、最も力が強いのは「経済エリート」である。
  • 要点
    3
    歴史に基づいて議論することは、ときに祖国のために、自らの命をなげうつことも辞さないような、米国人エリートの愛国心を醸成している。
  • 要点
    4
    世界を知り尽くし、世界の統治システムについて考え抜いている人材を米国ほど多く有する国はない。米国のインテリジェンス関連予算は実に日本の五〇倍超もある。

要約

米国の一流大学は本当にすごいのか?

iStockphoto/Thinkstock
米国大学のすごいところ・すごくないところ

米国の大学教育には感嘆するところもあるが、そうでないところもある。ただし、日本が学ぶべきところは数多い。

すごくないところの一つは、文系学生の数学力があまり高くない点だ。米国の大学や大学院に入学するための試験は、日本の中学校レベルと言える。また成績評価も、「米国の大学は成績のつけ方は厳しく、下手したら退学になる」という日本の通説は神話であり、成績が悪くて中退になるような学生はまれである。授業のクオリティも期待したほどすごくなく、学生のレベルも上澄みの学生同士を比較すると、日米にさほど差はない。

では逆に、米国の大学のすごいところはどこだろうか。目もくらむばかりの豊かさもあるが、米国の大学教育の最大の強みは、平均点以上の知的エリートを育てる点にある。「上澄みの学生は日米でさほど差はない」と述べたが、全学生の平均値という点では、米国の一流大学の方が断然上だろう。

その最大の理由は、「米国の大学はインプットとアウトプットの量がとにかく多い」という点にある。百本ノックのように、次から次に読書、レポート、プレゼンテーションの課題が降ってくるため、否が応にも知的筋力が付くのである。日米の学生の差を生んでいるのは、インプット量、読書量の差であり、米国のエリート学生は、大量の読書を強いられるため、平均値が高いのである。スタンフォードの学部生だと、四年間で最低でも四八〇冊の本を読むことになる。

さらに、米国の大学では娯楽がなく、勉強に集中することができる点も日本と異なる特徴と言えよう。よく作家が原稿執筆に集中するために、ホテルに缶詰になるが、その状態がずっと続くようなイメージだ。そうした刺激の少なさは、文化を生むという点ではマイナスだが、一生のうち数年間ぐらいは、修行僧のような生活を送るのも悪くないかもしれない。

TongRo Images/Thinkstock
米国は日本以上に学歴社会である

日本は学歴社会だが、米国は“自由の国”なので、実力さえあれば、学歴にかかわらず出世できる――そんなアメリカンドリームを信じている日本人も多いかもしれない。しかし、それは幻想だ。「米国は日本以上に学歴社会である」というのが現実である。

大企業のお偉方の多くがトップスクールの出身者であるだけでなく、シリコンバレーでも学歴が重視される。スティーブ・ジョブズのような大学中退組は例外で、「まず勝負の土俵に上がる」「チャンスの幅を広げる」という点で、学歴は成功へのチケットとなる。米国では学者を目指しているわけでもないのに、「学部を出た後、大学院を二つも出ている」といった人はザラにいる。

学歴が重視される背景には様々な事情があるが、最も重要なのが「コネづくり」だ。会社という枠を超え社会全体に広がる「大学閥」は貴重で、卒業生を含めた一流大学のネットワークに入れるか否かで、情報量やチャンスの多さに差がつくのである。

【必読ポイント!】 米国製エリートの特徴

iStockphoto/Thinkstock
なぜ経済学部が人気なのか

日本の大学で文系の一番人気は法学部だ。しかし、米国の学部に法学部はなく、ロースクールは大学院にしかない。法学部がない米国で一番人気の学部は、経済学部である。その背景には、自己責任、個人主義を徹底している米国では、人生において常に、自分自身で判断を下すことが求められ、そのときに良い答えを導くための指針となるのが経済学だからだと考えられる。

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要約公開日 2013.10.31
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