MITメディアラボ

魔法のイノベーション・パワー
未読
MITメディアラボ
MITメディアラボ
魔法のイノベーション・パワー
未読
MITメディアラボ
出版社
早川書房
出版日
2012年08月01日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

日本にはなぜMITメディアラボのような研究所がないのだろうか、このような環境を日本で作ることは無理なのだろうか。思わずそう嘆きたくなるほどに、本書で描写されるMITメディアラボの研究活動は刺激と魅力に満ち溢れている。ここでは文字通りに領域横断的な研究活動が行われている。たとえば「コンピュータ科学者がデザインや幼児教育について研究し、音楽家が神経科学の研究を行い、芸術家が電気工学やロボット開発を極め」といった具合だ。

そしてまた、ここで行われている活動には大きな特徴がある。それは研究者自身が自らの手を動かして日々プロトタイプを作り続けているという点だ。研究者たちがプロトタイプを作れるように、アイデアを形に落とすための講義すら準備されている。研究者たちはごく初期の段階からアイデアを形に落とし、デモンストレーションを重ねることで多くの有益なフィードバックを得てよりよい形を作り出しているのだ。こうした創造活動が実際に多くのイノベーションを生み出し続けている。

本書ではこうした活動が生み出してきた(生み出しつつある)イノベーションの事例が数多く紹介されているとともに、こうした活動を支える基本原理が明らかにされている。正にリーン・スタートアップをあらゆる産業で実現する仕組みである点に感銘を受ける。本書はイノベーションを志す全ての方に、重大な示唆をもたらしてくれるだろう。

ライター画像
猪野美里

著者

フランク・モス
2006年から2011年までMITメディアラボの第3代所長を務め、目下同ラボのニュー・メディア・メディスン・グループの代表などを務める。プリンストン大学卒、MIT大学院修了(航空宇宙工学専攻、博士)。IBM、アポロ・コンピュータ社、ロータス・デヴェロップメント社を経て、チボリシステムズ(1995年に上場、翌年にIBMに吸収合併)のCEO、会長に就任。起業家として、ステラ・コンピュータ社、インフィニティ・ファーマスーティカルズ社など、さまざまな企業を立ち上げている。

本書の要点

  • 要点
    1
    MITメディアラボで行われている研究活動はきわめて“自由”なものである。個々の研究者は自分の専門分野や研究資金の出資者に縛られることなく、研究者たちは問題解決のみを目標に、あらゆる知識、道具、人々を活用する領域横断的な研究を行っている。
  • 要点
    2
    MITメディアラボでは「デモ・オア・ダイ(デモができないなら死んでしまえ)」という有名な理念が端的に示すように、デモを行うためのプロトタイプ製作が重要視されている。
  • 要点
    3
    MITメディアラボは、障害者や弱者にフォーカスをあてる。それは、健常者にも何らかの欠陥や弱点は持っているため、そのフォーカスにより「ごく普通の人々にも大きな何かを達成させる“力”」を与えることになるからだ。

要約

MITメディアラボが目指すもの

iStock/Thinkstock
テクノロジーで世界を変える

マサチューセッツ工科大学にあるMITメディアラボで行われているのは、人間とテクノロジーを近づけ、テクノロジーによって人間や社会が抱える問題を解決し、世界を住みやすくするための研究である。たとえばそれは、足を失った人々のための義足、自閉症の人々のためのコミュニケーションツール、人々が自分の身体についての知識を持ち寄り正確に受診や服薬を行うためのインターフェイスなどである。テクノロジーに振り回されるのではなく、人々がより健康に、より豊かに、より幸福になるためにテクノロジーを用いることがMITメディアラボでは追求されている。

それと共に、普通の人々にこれまでは出来なかったような偉大な何かを達成できるようになる“力”を与えることも、MITメディアラボが追求していることだ。たとえば、ごく普通の子どもたちが作曲できるようになるソフトウェアや、直感的にプログラミングを学ぶことができるソフトウェアなどもその一例である。

このようにして発明されたものの一部には、既に私たちの日常生活にも馴染み深いものとなっているものもある。たとえば、Kindleなどの電子リーダーに使われている電子インク(E-ink)や、子どもに大人気のおもちゃであるレゴブロックの「マインドストーム」などである。

MITメディアラボの方法論①

iStock/Thinkstock
専門分野に捉われない

MITメディアラボはどのようにして、こうした独創的な発明を生み出してきているのか。その秘訣はMITメディアラボならではの研究スタイルにある。その特徴の一つ目が、各人が専門分野に捉われない研究を行っていることだ。

MITメディアラボには25の研究グループがあるが、それぞれのグループに属している人間の経歴は実に様々である。たとえば、都市が抱える交通渋滞や大気汚染といった様々な問題を解決すべく、新しい都市交通や都市計画を研究する「スマート・シティ」グループというものがある。このグループは、新しい交通手段となる「シティカー」の開発に取り組んでいたが、参加している十数人の学生の中で、自動車設計について正式な教育を受けたことがあるのはたった一人しかおらず、残りは建築、都市計画、機械工学、コンピュータ科学、電気工学、システム工学、医学、神経科学、ビジュアル・アートなどを専門とする学生だった。

『専門家』がいないメンバー構成であるからこそ、固定観念に邪魔されることなく、問題を自由に捉えることができるというのがMITメディアラボの考えだ。世界を変える斬新なイノベーションを生み出すには、投げかける疑問そのものが斬新なものでなければならないが、専門家は専門家であるがゆえに、そうした斬新な考え方を失ってしまっているからである。

そもそも、メディアラボが取り組むべき21世紀の課題、―世界的な貧困、気候変動から肥満の流行に至るまで―は非常に多次元かつ複雑なものであり、専門分野に細分化した20世紀的なアプローチではもはや対処不可能になっている。問題が複雑で多次元に渡るのだから学問分野の壁があってはならないのである。

MITメディアラボの方法論②

TongRo Images/Thinkstock
出資者に縛られない

このように自由で領域横断的な研究を支えているのはスポンサー企業からの運営資金である。スポンサー企業はメディアラボに対し、年会費という形で運営資金を提供している。資金を提供してもらっているからといって、その使途が限定されるわけでもなく、研究内容に口出しされるわけでもない。

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要約公開日 2013.11.01
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