本書は、法律家が持っている「法的仮説力」とは、いかなるものであるかを語っているものだ。著者の荘司氏(弁護士)によれば、「法的仮説力とは、ストーリーを組み立てる力である」とのことだ。
裁判で行われる事実認定とは、主に裁判官が証拠などに基づき、過去にあった事実の中で、争いのある部分をできるだけ事実に近いストーリーとして再構成する作業である。もちろん、裁判官が実際に現場で状況を見たわけではないので、再構成されたストーリーは真実とは異なる。
法律家は、日常的にストーリーを構築することに長けており、著者によれば、その能力はビジネスの局面においても十分に応用が可能である、とのことだ。それは、法的仮説力を身につけることで、将来起こりうる事柄の予測が可能になるからである。
さらに、「将来予測というと、巨大コンサルティングファームの十八番だと思われる方が多いだろうが、法律家も決してその能力は劣っていない。もっと言うならば、以下二点の宿命から法律家の方がその能力に長けている。
1.構築したストーリーの結果が極めて重大な影響を及ぼす(極刑の可能性すらある)
2.法律家のストーリーは裁判において公の場で批判される
法律家はストーリー構築に際し、最大限隙のないものを作らなければならないのだ」と著者は主張している。
元コンサルティングファームの人間として反対の立場で述べれば、コンサルタントの最終報告は確かに人命に関わることはないのかもしれないが、大規模なリストラ施策など多くの関係者の人生に影響することも少なくない。また利害が一致しない組織からは批判の対象になることも当然多いため、先に挙げた2点に匹敵する宿命を負っている。著者の観点とは異なるが、法律家の仮説力と、コンサルタントのそれは、本来比べることのできないものということが事実ではなかろうか。
本書では実際の裁判の判例(事実をやや脚色したもの)をもとに、ひったくりの事例、強姦事件の事例など実に多くのストーリー構築の実例が語られている。そのなかでも私が興味深いと感じたのは次の事件に関する記載だ。
髪の毛を金髪に染めた厚化粧の高校生が、道を歩いているときに突如転倒した。
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