経営戦略原論

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ジャンル
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2018年07月12日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

なんと意欲的な作品だろうか。経営戦略における実務と理論を論じて、双方を結びつけ橋渡しをする――。そんな壮大なビジョンが体現された一冊が登場した。本書を読めば、社会科学としての経営戦略を理論的に習得して、それを実学の経営戦略として活用する方法を身につけられる。

著者は、経営戦略の歴史を紐解き、有史以前から現在に至るまでの経営戦略の発展と進化を、体系的に取り上げている。重点が置かれているのは、理論の相互のつながりを読み解くことである。たとえば、ボストン コンサルティング グループが開発した成長/市場シェアマトリックス、マイケル・ポーターのファイブ・フォース分析、ジェイ・バーニーの資源ベース理論など、経営戦略史上、避けては通れない重要な理論が目白押しだ。

実務に経営戦略を活かすために、事業戦略と全社戦略をどのように立案すればいいのか。そして、その戦略をいかに実行して、組織内に浸透させていくべきか。著者ならではの見解も、読みごたえがある。中でも、事業戦略の立案に戦略ポートフォリオを活用する「理解」、「判断」、「行動」の3つのステップは、大いに参考になる。経営者や管理職をめざす方にとって役立つ内容ばかりだ。既に経営戦略を学んだ方も、その理解をいっそう深められるにちがいない。

本書を経営戦略の見取り図として、何度もお読みいただきたい。

ライター画像
木下隆志

著者

琴坂 将広(ことさか まさひろ)
慶應義塾大学総合政策学部准教授。
慶應義塾大学環境情報学部卒業。博士(経営学・オックスフォード大学)。小売・ITの領域における3社の起業を経験後、マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京およびフランクフルト支社に勤務。北欧、西欧、中東、アジアの9カ国において新規事業、経営戦略策定にかかわる。同社退職後、オックスフォード大学サイードビジネススクール、立命館大学経営学部を経て、2016年より現職。上場企業を含む数社の社外役員および顧問、仏EHESSのアソシエイト・フェローを兼務。専門は国際経営と経営戦略。主な著作に『領域を超える経営学――グローバル経営の本質を「知の系譜」で読み解く』(ダイヤモンド社)、共同執筆にJapanese Management in Evolution New Directions, Breaks, and Emerging Practices(Routledge)、East Asian Capitalism: Diversity, Continuity, and Change (Oxford University Press)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    経営戦略とは、「特定の組織が、何らかの目的を達成するために、外部環境分析と内部環境分析から作り出した道筋」である。
  • 要点
    2
    戦略フレームワークを選択するときは、自社が置かれている経営環境、内部環境を認識すべきだ。戦略フレームワークを活用するには、「理解」、「判断」、「行動」の3つのステップを踏む必要がある。
  • 要点
    3
    全社戦略を立案する上で、実務的な視点から必要となる要素は、「組織ドメインの定義・周知・更新」、「全社機能の戦略検討」、「事業領域の管理・再編」、「監査・評価・企業統治」の4つである。

要約

経営戦略の形成

経営戦略は実学であり、科学である

経営学のゴールは、実務者に経営に関する知識を提供することである。著者は、実学としてノウハウや経営に対する「最適な処方箋」を提供しようとする。同時に、経営を行う組織と個人に関する「普遍的な法則性」を科学として示す。このように二兎を追うのが本書の目的だ。著者は、経営戦略における実務と理論の両方を論ずることで、両方を結びつけ、橋渡しすることをめざしている。

では経営戦略とはどのように定義されるのか。まず、経営戦略の骨格は、「特定の組織が何らかの目的を達成するための道筋」にある。つまり、「組織」があり、到達すべき「目標」があって、それを達成するに至る「道筋」が、その骨格というわけだ。欧米の教科書によると、経営戦略は、「特定の組織が、何らかの目的を達成するために、外部環境分析と内部環境分析から作り出した道筋」と定義できる。

経営戦略の起源とは?
WitR/iStock/Thinkstock

経営戦略を「特定の組織が何らかの目的を達成するための道筋」と捉えてみよう。その場合、経営戦略の起源は、紀元前にまでさかのぼることができる。当時、ピラミッド建設などの大規模なプロジェクトでは、戦略がなければ遂行は不可能だった。また、戦略に関して記された書物の原点は、「孫子の兵法書」にあったといえる。

1900年代に入ると、フレデリック・テイラーによって経営を科学する手法が登場した。テイラーがめざしたのは、科学的管理法による生産改善である。労働者の行動を観察して、それを科学的に検討し、標準化する。これにより、生産効率を引き上げていった。それは単純労働中心の経済では、一定の合理性があった。しかし、経済が発展するにつれて、その焦点は生産性の追求から人間性の活用へと移行した。

経営戦略の発展と進化

経営戦略の黎明期
Comstock Images/Stockbyte/Thinkstock

1950年代、米国を中心に経済が安定的に成長して、企業規模が拡大していった。それに伴い、事業の多角化が進んだ。当時の事業計画は、各部署が達成すべき数値を土台に、積み上げ式で立案されていた。経済が長期的に安定していたため、予算を積み上げ、それを達成するということは比較的容易であった。

しかし、1960年後半、経済成長が停滞した。経営環境における不確実性が増していくと、企業では経営戦略が求められるようになった。その中で、イゴール・アンゾフは、戦略的意思決定の重要性を説いた。戦略的意思決定とは、不確実性の高い環境に対し、自社の経営資源をどう活用するかを決めることだという。そして、その意思決定を土台として、行動計画を定めるべきだと主張した。

1970年代、経済がさらに停滞すると、経済成長に合わせて事業を多角化するだけでは立ち行かなくなった。その結果、事業を再編する必要性が高まっていく。このとき、ボストン コンサルティング グループ(BCG)が開発した「成長/市場シェアマトリックス」、つまり「BCGマトリックス」が広まった。これは、縦軸に市場成長率、横軸に相対的市場シェアをとり、事業を「金の成る木」、「花形(エース)」、「問題児」、「負け犬」の4つに分類をする。

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要約公開日 2018.09.18
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