誰しも、自分の視力は大体わかるはずだ。一方、多くの人は、自分の聴力を知らない。健康診断の聴力検査でも、大まかな数値しか調べない。
また、人間が話を聞くときは、聞こえてくる音だけでなく、相手の表情や口の動き、話の流れなど、他の情報と合わせて内容を判断している。そのため、多少聞こえが悪くても自覚していないことが多いのだ。こうして多くの人は、知らず知らずのうちに耳が悪くなっていく。
たとえば、難聴の自覚がなくても、呼びかけられても気づかなかったり、早口だと聞き取れなかったり、騒がしい場所だと何度も聞き返してしまったりする人は、聴力が衰え始めている可能性がある。
聞こえづらいことに気づいても、「たいしたことない」「そのうち自然と治るだろう」などとそのままにしてしまう人も多い。しかし、聞こえが悪いと、人の話を正確に理解できず、何度も聞き返して相手に迷惑をかけてしまったり、重要な情報を聞き落としてしまったりするかもしれない。こうしたことが続くと、仕事にも支障が出てくるだろう。
話が通じないために口数が減り、自分の世界にこもるようになってしまう人もいる。何ごとにも無気力になり、うつのような症状が出ることも少なくない。
脳への刺激が薄れることにも注意したい。子どもならば発達障害、高齢者ならば認知症になるリスクが高くなってしまうからだ。
中医学では、人間の体はパーツの寄せ集めではなく、全身がつながっているとされている。したがって、耳の働きが衰えているのは、耳以外の部分にも原因があると考えるのだ。
耳の不調を訴える人に共通する症状は、3つある。
1つ目は、血流の悪化だ。これが耳が悪くなる最大の原因である。人間の体は約37兆個の細胞からなると言われているが、この細胞の活動に必要な栄養素と酸素は、血液によって供給されている。つまり、血流が滞ると、細胞が栄養不足に陥るということだ。耳のように細かな働きをしていて、多くの栄養を必要とする細胞は、特にダメージを受けやすい。
2つ目は、内臓疾患である。中医学では、体を動かすエネルギーである「気」、血液を指す「血」、汗やリンパ液などの「水」の3つの巡りをよくすることが健康につながると考えられている。この「気」と「血」が全身を巡る12本のルートを「経路」といい、お互いに影響しあう。耳は腎臓の経路上にある器官だが、腎臓だけでなく、ほかの内臓の疾患も耳に影響を与えるのだ。西洋医学においても、内臓疾患がある人は難聴になりやすいと考えられている。糖尿病の人は難聴のリスクが3.7倍、腎臓病の人は5.9倍という報告があるほどだ。
3つ目は、自律神経の乱れだ。自律神経とは、心臓の動きや体温の調節など、生きるための体の機能をコントロールする神経だ。自律神経が乱れると、耳の働きが悪くなるだけでなく、前述の「血流の悪化」と「内臓疾患」を引き起こす原因となる。
このように、耳の不調は耳だけの問題ではない。全身の不調と密接に関わりあっている。
著者はよく、「耳をよくするには腸をよくしろ」と言う。なぜなら、
3,400冊以上の要約が楽しめる