トヨタといえば、「トヨタ生産方式」や「ジャスト・イン・タイム」といった言葉から、効率性を重視した文化が根付いているのかという印象を受けるかもしれない。しかしそれはトヨタのものづくりの一面を切り取ったものに過ぎない。本書の第1・2章では、トヨタが考える人の育て方とトヨタが求める思考力について述べられている。
トヨタでは「ものづくりは人づくり」という言葉が語り継がれている。この言葉は、効率的にモノを作り、生産性を高めるには、自分で考え、自律的に動ける社員を育てることが不可欠だというトヨタの考えを端的に表している。トヨタの人を育てる風土を作りだしているものは一体何なのだろうか。
その原点は「家族主義」と「役割分担」にある、と本書は述べている。大家族主義は社員を家族の一員と見なし、「人を長い目で育てる」という文化を醸成し、役割分担は一人ひとりが自分の役割を果たし、「お客様によい商品を届けることに一丸となる」文化をそれぞれ作りあげた。社外の人ではなかなか教えられない、こうした「風土教育」こそが、人を育て、一人ひとりが考えて改善活動を続ける、よりよいモノを作り続けるというトヨタの強みを生み出している。
トヨタが育てたい「人財」とは、一言で言うと「自ら考えて問題・課題を設定し、問題解決ができる」人財である。そのような人を育てるために、トヨタでは様々な制度を取り入れている。
評価の仕組みの面では、トヨタでは仕事の成果だけでなく、自分の分身とも呼べる部下を何人育てられたかが、評価のモノサシとなっている。多くの会社では、「人材育成が大切なのは分かってはいるが、日々の業務が忙しくできていない」というケースが多いのではないだろうか。トヨタでは人材育成も評価対象に入れることで、自分の分身を作り、自分が去った後も組織がうまくいき、人を育てる文化が次の世代へと引き継がれるという循環ができている。
また、トヨタの評価制度でユニークな点として、人事考課要素の10%は「人望」が占めていることも挙げられる。こちらも成果を出すことだけが上司の仕事ではなく、部下から信頼されるかどうかも問われているのだということを、組織に浸透させる仕組みと言えよう。仮に、人望の評価項目がない会社に勤めていても、個人的に人望を意識すれば、自分の行動も部下の反応も変わるはずだと本書は述べている。
次に、業務の仕組みの面では、トヨタでは自ら考えることを促すために、作業の手引書としての「標準」という考え方を導入している。この標準は各作業のやり方や条件であるが、いわゆるマニュアルではない。標準はそれに盲目的に従うのではなく、自分の仕事が無駄なのか、改善の余地があるのかを考える基準になる。標準があっても皆がそれを守らないのなら、人ではなく標準が間違っており改善の余地があるはずと、考えることのきっかけになる。
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