WOWOWは、1991年に開局した有料BS(放送衛星)放送局である。家電メーカーの販売店と代理店契約を結び、テレビを購入した顧客にWOWOWを勧めてもらうことで新規加入を獲得していた。
しかし90年代中盤になると、CS(通信衛星)放送のパーフェクTV(スカパー!の前身)やJスカイBがサービスを開始する。競争が生まれ、値引きや特典による販促競争が激化した。
当時のWOWOWも他局と同様、「今入れば視聴料〇カ月無料」や「加入料無料」、さらにデジタル機器をプレゼントする特典などによって顧客を獲得していた。
しかし2002年度から2005年度にかけて新規加入数が鈍化し、新規加入数を解約数が上回る「純減」状態に陥ってしまう。2006年には、加入した月とその翌月の視聴料が加入料(当時3000円)込みで980円になる「980円キャンペーン」を実施。その結果、新規加入数は前年度から25万件増えて55万8千件となる。一方、解約数も前年度から14万3千件増加し、50万7千件となってしまった。翌2007年度にはついに、56万件の新規加入数に対して解約数が55万5千件となった。つまり1年間で実質5千人しか会員が増えなかったということだ。
無料キャンペーンや割引キャンペーンの実施は、大量加入・大量解約を招くこととなった。その原因は、顧客心理に「キャンペーン期間が終わったら解約してもよい」と意識づけてしまったことにある。
解約が増加する中、顧客の減少を止めるために発足した部署が「解約防止部」である。著者はこの部署の部長に任命された。マーケティング未経験だった著者は、関連書籍を読み漁ったりセミナーに行きまくったりしてマーケティングを学んだ。そして方針として決まったのが、加入だけでなく解約も含めて詳細なデータ分析をするということだ。
著者らは最初に、実態を客観的に分析するためのデータの評価、「アセスメント」を実施することにした。まず部員で社内の顧客データを整理し、その後は調査会社に依頼して調査を進めた。調査の対象とした期間は、顧客数が減少し始めた時期を基準に前後5年間。加入数と解約数、特に加入後何カ月目、何年目に解約しているかというポイントを検証した。
調査会社からの報告は、ここ数年、短期で解約する人が増えていること、とくに視聴料無料期間が終わった後の解約が多いというものだった。加えて、長期加入者、つまり開局から間もなく加入してくれた、WOWOWに愛着があると推測される顧客の解約も目につき始めているという指摘もなされた。
こうした傾向は、今までは現場の人間のみが雰囲気的に感じていたことだった。だがアセスメントの実施によってその傾向が事実として明らかになり、会社全体の目の前に突きつけられることとなった。
アセスメントの後に実施したのは、デプスインタビューのデータだ。これは1対1のインタビューで、50人の解約者に対し、リラックスした環境で話を聞かせてもらうというものだった。その目的は、顧客がなぜ、どのようなときに解約するのかの顧客のインサイトを詳しく把握することだ。生活の変化が視聴にどう影響するのか、番組編成が顧客の気持ちにどう影響しているのか、ゆっくり時間をかけて当時のことを思い出してもらいながら聞き出した。これはアンケートではできないことだ。
デプスインタビューによって、加入翌月、3カ月目、6カ月目の解約理由が浮き彫りとなった。加入翌月の解約理由は、
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