売上の8割を占める 優良顧客を逃さない方法

利益を伸ばすリテンションマーケティング入門
未読
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出版社
ダイヤモンド社

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出版日
2018年08月08日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

2007年、WOWOWは苦境に立たされていた。キャンペーンを駆使して56万人の加入者を獲得しても55万5千人が解約。多額の予算をかけているにもかかわらず、実質的には1年間に5千人しか加入者数が増えていない状態だった。

深刻な大量解約を受けて設置されたのが、「解約防止部」だ。そして著者がその部長に任命される。著者は知識も経験もない「リテンションマーケティング」を駆使し、解約を食い止めることに成功する。やがて累計加入世帯数が10年以上連続で増加するなど、有料放送業界では「WOWOWのひとり勝ち」と言われる状況へと導いた。

この「リテンションマーケティング」とは、新規顧客開拓よりも既存顧客維持に重点を置くマーケティング手法のことである。これは単なる現状維持の手法ではない。自社サービスを長期利用してくれている既存顧客に目を向けることで、自社ですら気づいていない自社サービスの本質的な価値を浮き彫りにすることができる。そしてその本質的な価値を顧客に届け、長期的にサービスを利用する優良顧客の割合を増やし、堅固な経営を実現するというものだ。

そんな「リテンションマーケティング」をWOWOWという実際のビジネス現場で活用し、そこから得られた教訓を凝縮したのが本書である。本書には机上の空論ではないリアルな迫力がある。マーケティング担当者はもちろんのこと、すべてのビジネスパーソンに一読をおすすめしたい。

著者

大坂 祐希枝(おおさか ゆきえ)
マーケティングコンサルタント。元株式会社WOWOWコミュニケーションズ取締役営業本部長。
東京学芸大学卒業。日経ラジオ社、東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)を経て、有料放送のWOWOWに入社。
2006年、解約増加による4年連続加入者減少を受け新設された「解約防止部」の初代部長に就任。顧客を引き留めるリテンションマーケティングを実施して加入者数減少に歯止めをかけた。その後マーケティング局長に就任し、新規獲得からエンゲージメントの全体を担当。2014年、WOWOWコミュニケーションズ取締役に就任。WOWOWグループ初の女性取締役、かつ男性中心の放送業界において希少な営業部門の女性取締役となった。
2016年退社。現在、東証一部上場の学習塾最大手、明光ネットワークジャパンの執行役員を務めるほか、「優良顧客とともに歩むリテンションマーケティング」に関する講演、執筆に活躍している。

本書の要点

  • 要点
    1
    WOWOWを悩ませた大量加入・大量解約の原因は、無料キャンペーンや割引キャンペーンを継続的に実施することにより、顧客心理に「キャンペーン期間が終わったら解約してもよい」と意識づけてしまったことにある。
  • 要点
    2
    著者らは加入期間別に利用者の解約理由を突き止め、それを覆すアプローチを実施した。
  • 要点
    3
    著者らは利用者の「気持ち」に応える番組をレコメンドすることで、解約者を減らすことに成功した。
  • 要点
    4
    解約したい顧客を引き留める施策も重要だが、本質的な課題は、顧客を優良顧客化して長期にわたってサービスを利用し続けてもらうようにすることだった。

要約

WOWOWの抱えていた課題

大量加入、大量解約
SIphotography/gettyimages

WOWOWは、1991年に開局した有料BS(放送衛星)放送局である。家電メーカーの販売店と代理店契約を結び、テレビを購入した顧客にWOWOWを勧めてもらうことで新規加入を獲得していた。

しかし90年代中盤になると、CS(通信衛星)放送のパーフェクTV(スカパー!の前身)やJスカイBがサービスを開始する。競争が生まれ、値引きや特典による販促競争が激化した。

当時のWOWOWも他局と同様、「今入れば視聴料〇カ月無料」や「加入料無料」、さらにデジタル機器をプレゼントする特典などによって顧客を獲得していた。

しかし2002年度から2005年度にかけて新規加入数が鈍化し、新規加入数を解約数が上回る「純減」状態に陥ってしまう。2006年には、加入した月とその翌月の視聴料が加入料(当時3000円)込みで980円になる「980円キャンペーン」を実施。その結果、新規加入数は前年度から25万件増えて55万8千件となる。一方、解約数も前年度から14万3千件増加し、50万7千件となってしまった。翌2007年度にはついに、56万件の新規加入数に対して解約数が55万5千件となった。つまり1年間で実質5千人しか会員が増えなかったということだ。

無料キャンペーンや割引キャンペーンの実施は、大量加入・大量解約を招くこととなった。その原因は、顧客心理に「キャンペーン期間が終わったら解約してもよい」と意識づけてしまったことにある。

解約防止部の取り組み

解約理由を把握する

解約が増加する中、顧客の減少を止めるために発足した部署が「解約防止部」である。著者はこの部署の部長に任命された。マーケティング未経験だった著者は、関連書籍を読み漁ったりセミナーに行きまくったりしてマーケティングを学んだ。そして方針として決まったのが、加入だけでなく解約も含めて詳細なデータ分析をするということだ。

著者らは最初に、実態を客観的に分析するためのデータの評価、「アセスメント」を実施することにした。まず部員で社内の顧客データを整理し、その後は調査会社に依頼して調査を進めた。調査の対象とした期間は、顧客数が減少し始めた時期を基準に前後5年間。加入数と解約数、特に加入後何カ月目、何年目に解約しているかというポイントを検証した。

調査会社からの報告は、ここ数年、短期で解約する人が増えていること、とくに視聴料無料期間が終わった後の解約が多いというものだった。加えて、長期加入者、つまり開局から間もなく加入してくれた、WOWOWに愛着があると推測される顧客の解約も目につき始めているという指摘もなされた。

こうした傾向は、今までは現場の人間のみが雰囲気的に感じていたことだった。だがアセスメントの実施によってその傾向が事実として明らかになり、会社全体の目の前に突きつけられることとなった。

解約者のペルソナを作成する
Jirapong Manustrong/gettyimages

アセスメントの後に実施したのは、デプスインタビューのデータだ。これは1対1のインタビューで、50人の解約者に対し、リラックスした環境で話を聞かせてもらうというものだった。その目的は、顧客がなぜ、どのようなときに解約するのかの顧客のインサイトを詳しく把握することだ。生活の変化が視聴にどう影響するのか、番組編成が顧客の気持ちにどう影響しているのか、ゆっくり時間をかけて当時のことを思い出してもらいながら聞き出した。これはアンケートではできないことだ。

デプスインタビューによって、加入翌月、3カ月目、6カ月目の解約理由が浮き彫りとなった。加入翌月の解約理由は、

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要約公開日 2018.11.14
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