仕事を教えても、部下や後輩が自分のレベルに近づくまでは、当然それなりの時間がかかる。「ならば自分でやる方が早いし、せっかく教えても部下が結果を出すまで生産性がないのでは?」という考えから、教えることを敬遠する人が多いのも事実だ。
しかし、このような考え方は、あまりに「短期的」な視点に偏り過ぎている。ビジネスパーソンである以上、もう少し「中・長期的」な見方もすべきだ。「自分でやったほうが早い」と考える気持ちもわかるが、これを続けてしまうと、数年後はどうなってしまうのだろうか。自分でやったほうが早いと様々な仕事を抱え込んだ結果、本来なら自分がやらなくてもいい仕事にまで追われる日々を送っているかもしれない。目先のことを考えている人には、大きな仕事はできないのだ。
「自分がやったほうが早い」という先入観を捨て、会社の成長のための「教える時間」を確保すること、そして教えた相手が戦力になるまでの「我慢の時間」を持つことが大事だ。教えることにかかった時間は、あとで必ず回収できるのだから。
人は自分の頭でしっかり整理できていない情報を人に教えることはできない。言い換えれば、自分が完全に理解していることのみ、人に教えられる。また、教える機会が多ければ多いほど、教える側に知識が定着し、その分野における自信にもつながる。
そういった意味で、教えることには3つのメリットが存在すると言えよう。
①相手にわかりやすいよう、自分のノウハウを整理するため、「知識の棚卸作業」になる
②他人にどう教えるか、その伝え方を考えることが、自分自身の「学び」につながる
③初心者に教えることで、自分が忘れていた基本的な事項を復習できる
小学生が算数を習うとき、足し算、引き算、そして掛け算、割り算と少しずつ学習していくように、大人を指導するときも一度に多くのことを伝えるのはやめたほうが良い。一度に教えるポイントは多くても3つまでで、相手の理解力や意欲によっては1つの大事なポイントを教えるのが精一杯ということもあるだろう。
例えば、新入社員に営業のやり方を教えるとしよう。「自分で訪問先を見つけ、営業して、売上をあげる」という全体の流れを細分化すると何十ものポイントに分けることができる。ここで、新規開拓の方法やアポイントのとり方から始まる一連の流れを説明して、「では、やってみなさい」とするのは完全なNGだ。
こういう場合、最初は「訪問先で担当者の名刺をもらう」ことをゴールにしてみればいかがだろうか。もちろん、ただ名刺を受け取るだけでなく、初対面の方への「あいさつの仕方」「名刺交換のマナー」「名刺から読み取れる情報(部署や役職など)を用いた会話の仕方」の3つを詳しく教えるのだ。教えられる側は「ただの名刺交換にも1つひとつの行動に深い意味がある」と感じることだろう。
このように細分化し、ポイントを絞り込んで教えることで、基本がしっかり身につき、その後の応用が利きやすくなる。
一生懸命教えているのに、部下の反応がいまいちよくない。こんなとき、「自分は教え下手なんだ」と悲観的になるのは早過ぎる。反応がないからといって、相手が理解していないとは限らないし、逆にリアクションはいいのに、実際には大事なことがわかっていなかった、ということもありえる。つまり、学習中のリアクションだけでは、相手の理解度を測ることはできないのだ。
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