本書は、情報・テクノロジー・科学の進歩などを俯瞰し、それらが交わるところにある予測について語られている。予測が当たる、または外れる要因を分析した上で、将来をどのように予測していくべきかが述べられる。
前半部分は金融危機などの予測の失敗が語られ、動的システムの予測の難しさへの考察を深めた上で、予測の精度を高める方法に言及されている。特に著者はベイズの定理を用いて、ランダム性や不確実性への理解を深めることに重点を置いている。
それでは統計における、真実を表すシグナルと真実から目をそらすノイズについて、理解を深めていこう。
2008年、名門投資銀行の一角、リーマン・ブラザーズの経営破たんに端を発した金融危機により、金融市場は麻痺状態に陥る。株価は5週間で30パーセント下落、ラスベガスの住宅価格も40パーセント下落し、失業率も急上昇を続けた。
大統領選挙が近づき、政府は大手格付会社である、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)、ムーディーズ、フィッチ・レーティングスの責任者を呼び、モーゲージ証券のデフォルト率の予測に関して責めたてた。これは大規模な予測の誤りを象徴する出来事だろう。
格付会社は、通常は世界でもっとも支払い能力の高い政府や優良企業にのみ与える、トリプルAをCDO(債務担保証券)に気前よく割り当てた。S&PでトリプルAとは向こう5年間で支払い不能となる確率がわずか0.12パーセントであることをいう。
それが実際はS&PのトリプルAと格付されたCDOの28パーセントがデフォルトしたのだ。何と予測した率の200倍である。
更に格付会社は自分たちの非を認めようとしない。公聴会においても、「住宅や住宅ローン市場の急落に驚いているのはS&Pだけではありません。実際、予想していた人はいないのです。(後略)」という弁明をしたのである。既に住宅バブルへの警笛を鳴らす専門家が多かったにも関わらず。
詳しくCDOに関して見てみよう。CDOとは、数多くのローン債権を集めて資産のかたまりをつくり、「トランシェ」と呼ばれる部分に切り分けて組成する金融商品だ。
5つの住宅ローンがあるとする。それぞれのデフォルト率は5パーセントで、それらを組み合わせていくつかの投資商品をつくる。最も安全なのは、すべてのローンがデフォルトしなければ、約束通りの金額が支払われる商品である(これをアルファ・プールと呼ぶ)。一方で、もっともリスクが高いのは、5つのローンのうちどれか1つでもデフォルトしたら一巻の終わりとする商品だ(これをエプシロン・プールと呼ぶ)。
ではアルファ・プールはどれだけ安全なのだろうか。ここに統計のマジックがある。
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