本書の要点

  • MaaSとは、従来のマイカーや自転車、公共交通機関などの交通手段をモノで提供するのではなく、サービスとして提供するという新しい概念で、決済手段の統合をも実現する。

  • MaaSの普及を見据えて、自動車業界、行政、公共交通機関が入り乱れてさまざま実証実験を行うなど、新しいMaaSの姿を模索する動きが激しくなっている。

  • MaaSはクルマ社会が生み出したさまざまな課題を解決するためのプラットフォームとして機能する。世界に類を見ないクルマ社会と整備された公共交通機関をあわせ持つ日本は、その恩恵を受けやすい。

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MaaSを理解する

MaaSとは

Preto_perola/gettyimages

フィンランドの首都ヘルシンキにて、2050年の将来交通ビジョンが策定された。ここで提案されたのは、化石燃料に依存しない次世代の交通社会だ。このビジョンのもと、自動車依存から脱却するための方策として、MaaS(Mobility as a Service、マース)が生まれた。

MaaSとは、マイカーや自転車、公共交通機関などの交通手段をサービスとして提供するという新しい概念だ。スマートフォンで行きたい場所を入力すれば、ルート検索から予約、決済までが行えるサービスだと理解すればよいだろう。

あなたのスマホには、交通関連のアプリがいくつ入っているだろうか。ルート検索のアプリ、鉄道運行情報アプリ、バスのアプリ、自転車シェアリングのアプリ……たくさんのアプリを駆使しているはずだ。MaaSでは、これらすべてがたった1つのアプリにまとめられる。自動車や鉄道、バス、タクシー、レンタカーといった従来の交通サービスに加え、カーシェアリングや配車サービスなどの新しい交通サービスもすべて統合され、利用者の移動を支援してくれる。

MaaSによって、移動がただ便利になるだけではない。MaaSの目的は、自動車と同等かそれ以上に魅力的なモビリティサービスを提供し、持続可能な社会を構築することだ。

MaaSオペレーターの役割

次々に誕生した。その主体はさまざまで、フィンランドのヘルシンキのように政府主導によって進められている取り組みもあれば、地方自治体や自動車メーカー、公共交通による取り組みなどもある。

代表的なのは、行政主導として最も進んでいるフィンランドのMaaSアプリ「ウィム」だ。このアプリでは、ヘルシンキ市内すべての公共交通機関に加え、カーシェアリング、レンタカー、タクシーが1つのサービスとして統合され、ルート検索から予約、決済まで行うことができる。さらには定額のサブスクリプションモデルで公共交通機関、レンタカー、タクシー(5km以内)、自転車シェアリングが乗り放題だ。タクシーを活用し、公共交通機関の課題であるラストワンマイルを補完している点がポイントだといえよう。

モビリティの進化とMaaSの誕生

Vera Agency/gettyimages

20世紀には、次々と新しい移動手段が誕生し、それらが産業構造を変え、社会を変えてきた。大量輸送手段として鉄道やバスが、よりきめ細やかな移動を提供するためにタクシーやハイヤーが生まれた。

そして21世紀。マイカーを所有することが当たり前だったが、カーシェアリングが「所有から利用へ」の流れを一気に加速させる。続いて自転車シェアリングも生まれ、2009年、米ウーバーテクノロジーズがライドシェアを爆発的に普及させた。

こうして移動手段が多様化したことで、最適な移動手段の検索という新たな市場を生み出した。最初に生まれたのは公共交通の経路検索サービスだ。やがて、配車サービスや自転車シェアなども含め、交通手段のなかから最適な交通手段を検索し、それを予約できる統合プラットフォームが登場していった。

こうした中、2014年にヘルシンキの学生であるソンジャ・ヘイッキラ氏が発表したのが、通称「MaaS」論文とよばれる論文だった。彼女は、慢性的な渋滞や駐車場不足、環境問題を引き起こす社会が人々にストレスを与えていることを述べるとともに、マイカーがなくても困らない社会を実現する方法を示してみせた。それが、MaaSオペレーターが介在するMaaSの世界だ。ヘイッキラ氏はヘルシンキ市当局を動かし、「Maas生みの親」の1人となった。

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要約公開日 2019.02.27
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