知略を養う 戦争と外交の世界史の表紙

知略を養う 戦争と外交の世界史


本書の要点

  • 世界最古の国際平和条約は、16年間の対戦を経てラムセス二世とハットゥシリ三世の間で結ばれた。

  • 南北戦争は、保護貿易を主張する北部と自由貿易の立場を取る南部の間で起こった、アメリカの歴史の方向を決定づけた戦争であった。

  • 中国の清朝とロシアのロマノフ朝は、ロシアが国境付近に築いた砦を巡って衝突を繰り返した。しかし戦争の長期化を望まない両国は、1689年、ロシアで会合してネルチンスク条約を締結した。これは中国が初めて外国と結んだ条約である。

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世界最古の国際平和条約:カデシュの戦い

要地だったシリア

the_guitar_mann/gettyimages

条約は、戦争や紛争が一定の終結を迎えたときに結ばれることが多い。だが時に、対等の立場にある国や集団が条約を締結するケースもある。戦場の名称を取って「カデシュの戦い」と呼ばれているものも、そのひとつだ。エジプト王ラムセス二世とヒッタイト王ムワタリ二世の間で、16年間の戦いののち、紀元前1258年に結ばれた。カデシュとはシリアの地名で、現在のレバノンとの国境付近に位置している。歴史的にシリアと呼ばれてきた地域は、現在のシリア、レバノン、ヨルダン、パレスチナ、イスラエル、さらにトルコ南部地方までを含んでいた。この地域は肥沃な三日月地帯と呼ばれ、往事の世界の総生産の大半が集中していたとされている。さらにシリアは、メソポタミアからエジプトに行く場合にも、その逆の場合にも、必ず通らなければならない場所だった。地中海貿易の拠点にもなっており、メソポタミアやエジプトにとってつねに戦略的拠点であった。

エジプトとカデシュの衝突

古代のエジプトに、新王国という強大なエジプト人の統一国家が生まれた。その第18王朝の支配者がトトメス三世だ。彼が率いるエジプト軍は、シリアを越え、メソポタミアにまで侵攻した。これに対してカデシュとメギドの連合軍が立ち上がったが、戦いはトトメス三世軍の圧勝に終わり、カデシュ周辺はエジプトの支配下に入った。しばらくエジプトの支配が続いたあと、エジプトにアメンホテプ四世という王が登場した。彼は遷都したり、多神教をやめて一神教に変えたり、美術の表現手法を変えたりした。彼が信仰や美術に夢中になって対外政策や海外領土の統治をおろそかにしてしまった結果、カデシュの人々は新王国の支配を逃れてしまう。カデシュはエジプトに対抗するため、ヒッタイトという遊牧民を頼るようになっていた。彼らは温暖な地を求めてアナトリア半島(現在のトルコ)に向かい、そこで先住民から鉄器の製造を学んで、鋼の武器を得ていた。この頃の諸民族は青銅器や銑鉄しか知らなかったので、ヒッタイトは最強の武力を持っていたといえる。

戦争の事後処理としての平和条約

MangoStar_Studio/gettyimages

エジプト新王国の王、セティ一世は不服従の態度を取るカデシュを占領した。しかしカデシュにはヒッタイトの援軍があるため、セティ一世がエジプトに引き揚げるとすぐに独立してしまう。やがて王位はセティ一世の子、ラムセス二世へと継承される。一方ヒッタイトにも、ムワタリ二世という強力な君主が生まれていた。

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要約公開日 2019.03.02
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