知略を養う 戦争と外交の世界史

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知略を養う 戦争と外交の世界史
出版社
かんき出版

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出版日
2018年09月03日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

人間は戦争を繰り返してきた。人間の歴史は戦争の歴史であり、外交の歴史である。古今東西さまざまな場所でなされてきた戦争、そして外交の裏側には、いったいどんなドラマがあったのか。そうしたドラマから、私たちはいったい何を学ぶべきか。それを示してくれるのが本書である。

本書の著者は、立命館アジア太平洋大学(APU)学長である出口治明氏だ。歴史への造詣が深く、歴史をビジネスの観点から読み解いた書籍を多く出版している。

本書で紹介される戦争と条約は、30年戦争や南北戦争、アヘン戦争といった中学生でも知っているような戦争から、世界最古の平和条約が結ばれたカデシュの戦い、分裂と抗争が続いたイタリア半島に40年間にも及ぶ平和の時代をもたらした同盟、中国が初めて外国と結んだ条約まで、バラエティ豊かだ。どれも世界を動かし、支えてきたものばかりだと著者は言う。

本書を読んで、教科書で学んだときには単なる記号にすぎなかった出来事が色をもち、立体的になったように感じられた。年代や地域、規模はそれぞれ異なるが、どんな戦争であっても、その裏にはやはりドラマが存在しているのだ。ドラマの登場人物のなかには共感できる人物もいるし、その行動の意味がどうしても理解できない人物もいる。だからこそ彼らも私たちと同じ、1人の人間なのだということがよく理解できた。時代は違えど同じ生身の人間であった彼らがもめ事をどう解決したのか、ビジネスに生かすところも多い一冊である。

著者

出口 治明(でぐち はるあき)
立命館アジア太平洋大学(APU)学長。1948年、三重県美杉村生まれ。京都大学法学部を卒業後、1972年、日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退職。
同年、ネットライフ企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年4月、生命保険業免許取得に伴いライフネット生命保険株式会社に社名を変更。2013年、代表取締役会長に就任。2018年より現職。
訪れた世界の都市は1200以上、読んだ本は1万冊を超える。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義で歴史の講義を受け持った。
おもな著書に、『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『仕事に効く 教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)、『全世界史(上、下)』(新潮社)、『人類5000年史Ⅰ:紀元前の世界』(筑摩書房)、『0から学ぶ「日本史」講義 古代篇』(文藝春秋)など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    世界最古の国際平和条約は、16年間の対戦を経てラムセス二世とハットゥシリ三世の間で結ばれた。
  • 要点
    2
    南北戦争は、保護貿易を主張する北部と自由貿易の立場を取る南部の間で起こった、アメリカの歴史の方向を決定づけた戦争であった。
  • 要点
    3
    中国の清朝とロシアのロマノフ朝は、ロシアが国境付近に築いた砦を巡って衝突を繰り返した。しかし戦争の長期化を望まない両国は、1689年、ロシアで会合してネルチンスク条約を締結した。これは中国が初めて外国と結んだ条約である。

要約

世界最古の国際平和条約:カデシュの戦い

要地だったシリア
the_guitar_mann/gettyimages

条約は、戦争や紛争が一定の終結を迎えたときに結ばれることが多い。だが時に、対等の立場にある国や集団が条約を締結するケースもある。

戦場の名称を取って「カデシュの戦い」と呼ばれているものも、そのひとつだ。エジプト王ラムセス二世とヒッタイト王ムワタリ二世の間で、16年間の戦いののち、紀元前1258年に結ばれた。カデシュとはシリアの地名で、現在のレバノンとの国境付近に位置している。

歴史的にシリアと呼ばれてきた地域は、現在のシリア、レバノン、ヨルダン、パレスチナ、イスラエル、さらにトルコ南部地方までを含んでいた。この地域は肥沃な三日月地帯と呼ばれ、往事の世界の総生産の大半が集中していたとされている。

さらにシリアは、メソポタミアからエジプトに行く場合にも、その逆の場合にも、必ず通らなければならない場所だった。地中海貿易の拠点にもなっており、メソポタミアやエジプトにとってつねに戦略的拠点であった。

エジプトとカデシュの衝突

古代のエジプトに、新王国という強大なエジプト人の統一国家が生まれた。その第18王朝の支配者がトトメス三世だ。彼が率いるエジプト軍は、シリアを越え、メソポタミアにまで侵攻した。これに対してカデシュとメギドの連合軍が立ち上がったが、戦いはトトメス三世軍の圧勝に終わり、カデシュ周辺はエジプトの支配下に入った。

しばらくエジプトの支配が続いたあと、エジプトにアメンホテプ四世という王が登場した。彼は遷都したり、多神教をやめて一神教に変えたり、美術の表現手法を変えたりした。彼が信仰や美術に夢中になって対外政策や海外領土の統治をおろそかにしてしまった結果、カデシュの人々は新王国の支配を逃れてしまう。

カデシュはエジプトに対抗するため、ヒッタイトという遊牧民を頼るようになっていた。彼らは温暖な地を求めてアナトリア半島(現在のトルコ)に向かい、そこで先住民から鉄器の製造を学んで、鋼の武器を得ていた。この頃の諸民族は青銅器や銑鉄しか知らなかったので、ヒッタイトは最強の武力を持っていたといえる。

戦争の事後処理としての平和条約
MangoStar_Studio/gettyimages

エジプト新王国の王、セティ一世は不服従の態度を取るカデシュを占領した。しかしカデシュにはヒッタイトの援軍があるため、セティ一世がエジプトに引き揚げるとすぐに独立してしまう。やがて王位はセティ一世の子、ラムセス二世へと継承される。

一方ヒッタイトにも、ムワタリ二世という強力な君主が生まれていた。

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要約公開日 2019.03.02
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