睡眠時間を削ることを「美徳」と捉えがちな日本人は、睡眠時間を短縮できたらもっとパフォーマンスを上げられると考える人が少なくない。ナポレオンやエジソンは睡眠時間が短くても平気な「ショートスリーパー」として有名で、3〜4時間睡眠だったといわれている。
まず知っておきたいのは、睡眠時間の長短は遺伝的資質に規定されるところが大きいということだ。「トレーニングすれば誰でもショートスリーパーになれる」と主張する人もいる。だが、短時間睡眠の因子をもっていない人がそれをやろうとしても、睡眠負債がたまっていくだけだ。本当に睡眠時間が短くても大丈夫なショートスリーパーは、じつは全体の1%未満にすぎない。
かつて睡眠は受動的な意識消失状態と考えられていて、魅力的な研究対象ではなかった。睡眠が研究対象として注目されるようになった契機は、1953年のレム睡眠の発見だ。レム睡眠の発見とほぼ同時期に、睡眠・覚醒は脳の自発的な活動によって引き起こされているという概念が提唱され、研究が進められるようになった。また睡眠に関係した病気についても徐々にわかってきて、「睡眠医学(sleep medicine)」という学問が形成されてきた。
しかし、睡眠の深さも睡眠の質も、いまなおその本質はわかっていない。適正な睡眠時間も、どの程度の睡眠不足があるかもはっきりとはわからない。睡眠中の現象としてはわかっていても、そのメカニズムが不明のものもある。睡眠について明らかになっていることは、まだ全体の10%にも満たないのではないかと著者が言うほどに、謎多き分野なのだ。
「ヒトは一定の睡眠時間を必要としており、それよりも睡眠時間が短ければ、足りない分がたまる。つまり眠りの借金が生じる」――これが睡眠負債(sleep debt)である。借金がたまると、脳や身体にさまざまな機能劣化が起こり得ると考えられている。
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