著者は、日本でAIが知られるようになる前から、グーグル本社で機械学習のシニアストラテジストとして勤務していた。その後シリコンバレーにて、パロアルトインサイトというAIビジネスデザインカンパニーを起業し、経営している。
AIビジネスとは、「AI技術を使って企業の課題を解決する方法を提案し、実装すること」。AIビジネスデザインとは、「経営者や事業担当者とデータサイエンティストの間に立ち、AIビジネスを創造する仕事」を指す。著者はAIビジネスデザイナーとして、50社以上の日本企業に対して、AI技術活用に関するアドバイスや実装、導入を行なってきた。その中で痛感したのは、日本企業のAIに対する認識不足だ。
AIビジネスに携わる人にとって、AIとは、学問領域の名前や機械学習、ディープラーニングなどの手法の総称を意味する。一方、一般の人の中には、AIをロボット的な何かだと認識している人もいる。
AIによる学習のアウトプットを擬人化する傾向もある。AIが予測した株価を紹介する際には、「予測ちゃん」というキャラが話しているかのような手法が取られる。AIは手法や学問領域の総称でしかないにもかかわらずだ。
この擬人化は、AIビジネスを考えるうえで弊害になりえる。抽象的な概念は抽象的なまま議論しないと、本質を見誤りかねないからだ。
AIビジネスは、大企業だけのものではない。むしろ中小企業ほど、AIを導入すれば大きなビジネスインパクトを出せる可能性がある。
著者のもとに、街の歯科技工所と歯科医からAIを導入したいという相談が届いた。その歯科技工所は、歯科技工士が不足する中、AIを使って歯科技工物を機械的に製造したいというアイデアを持っていた。さらに、歯科技工物をAIで分析し、歯科医院の経営支援やコンサルをしてはどうかとも考えていた。歯科医は、予約システムや受付業務、カルテや薬剤の在庫管理へのAI導入を検討していたという。いずれも、実現可能性の高いアイデアだ。
マッキンゼー・グローバル・インスティチュートの発表によると、AIが不可欠な業種は16パーセント。AIを導入すれば業績が大きく伸びると予想される業種は、全体の69%にも達するという。
アメリカではすでに、あらゆるシーンでAIが活用されている。そのひとつが、270万人が使うファッション通販サイト「スティッチフィックス(Stich Fix)」だ。
スティッチフィックスの会員になったユーザーは、サイト上で85項目の質問に回答する。体型や予算はもちろんのこと、複数の洋服の写真を見て「大好き」「好き」「嫌いではない」「嫌い」を選択する質問もある。すると後日、個々のユーザーにおすすめの洋服が5着送られてくる。ユーザーはその5着のうち、好みの服だけを購入し、好みでないものは無料で返却できる。サービスの基本料金は月額20ドルだ。1着でも購入すると20ドル割り引かれるため、手数料は実質無料である。
スティッチフィックスの特徴は、あらゆるシーンでAIが活用されていること。そして、AIだけではまかなえない部分に人間のサポートが入っており、AIとスタイリストがそれぞれ得意とする領域で協働していることだ。実際スティッチフィックスには、75名以上のデータサイエンティストと、約3500名のスタイリストが在籍している。
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