LINEはメールのようにメッセージを送り合うことができるコミュニケーションアプリである。LINEは様々なサービスを展開しているが、そのひとつにLINEペイがある。
LINEペイは、決裁と送金ができるアプリだ。LINEペイでクレジットカードや銀行口座を登録しておけば、提携先でネットショッピングができる。さらにLINEペイには銀行口座のような機能があり、お金がチャージできるシステムになっている。チャージはスマホで銀行口座から入金する。現金をチャージするという点ではSuicaなどのプリペイドカードに似ている。ただし、プリペイドカードにチャージしたお金は出金できないが、LINEペイは出金も可能だ。
コンビニや自動販売機などの支払いだけでなく、電気や水道料金など公共料金の支払いもできる。請求書のバーコードをスマホで読めばその場で支払いができて便利だ。
また、プリペイドカードと違い、LINEペイでは送金もできる。LINEアカウントを持っている人には銀行振込とは比べ物にならないほど簡単に送金ができてしまう。
これまで送金は銀行だけに認められていたが、資金決済法により、銀行以外の会社でも100万円以内の送金が可能になった。LINEペイにはこの送金機能を利用した「割り勘」機能もある。
LINEペイのような、金融とIT技術を融合した新しいサービスを「フィンテック」と呼ぶ。近年は様々なフィンテックが登場しているが、その背景には金融の規制を緩和した新たな法の施行がある。2010年に施行された資金決済法だ。これにより、決済、送金、融資については小規模であれば銀行以外の会社でも可能になった。
特に送金サービスを事業会社が扱えるようになったことは大きな規制緩和である。これまで送金は「銀行免許」を持った銀行しか行うことができなかった。しかし、新しくできた「資金移動業」は業者登録のみで始められ、大きくハードルが下がった。利用者保護のため、資金決済法では「送金途中の資金の100%以上の資金を法務局に供託する」「1回当たりの送金は100万円相当まで」という2つの規則が定められている。
キャッシュレスとは、現金を使わないで支払う方法である。クレジットカード、デビットカード、スイカなどの決済がこれにあたる。
中国や韓国はキャッシュレス決済の普及が進んでおり、キャッシュレス決済の比率はそれぞれ60%、89%と高水準だ。一方、日本は18%と非常に低く、キャッシュレス決済はあまり普及していない。
その背景には、治安がいいため現金を持ち歩くリスクが低いこと、偽札の少なさ、現金そのものの清潔さなどが挙げられる。ATMが多いことも要因のひとつだ。キャッシュレス化により小売店は、釣銭用の小銭の準備、現金の確認や保管など、現金を扱う手間を省くことができる。外国人観光客の取り込みも大きなメリットだろう。読み取り端末の導入や決済手数料などは小規模な小売店にとって大きな負担となる。
この解決策として、QRコード決済が登場している。QRコードにスマホをかざすだけで決済ができるというものだ。これはスマホやタブレットのアプリで加盟申請するだけで導入できるので、端末導入コストがかからないことが魅力である。
LINEアプリはアジアを中心に、世界230以上の国や地域で利用されており、ユーザーは2015年に2億人を超えている。
LINEアプリ自体は無料で使える。LINE社の主な収益は広告、スタンプ、ゲームから得られている。この中のスタンプの売り上げは横ばい状態だが、広告収入は増加している。
近年、若者はテレビを離れる傾向があり、SNSへとシフトしたと言われている。この状況は広告メディアの勢力図を大きく変えている。LINEの普及によって、企業がLINE広告を重要な広告メディアとして位置付けており、より魅力的なスタンプをそろえることにも注力している。これはこれまでなかったスタイルの広告だ。企業がLINE目線の広告戦略を始めたことは注目すべきだろう。
既存の収益源に加えて、LINE社は金融ビジネスの展開などでも新たな収益源を開拓しており、現在も成長中だ。
メルカリはスマホを使って不用品を簡単に売買できるフリーマーケットアプリで、急成長を見せている。スマホで写真を撮り、特徴を入力するだけで出品できる手軽さで人気を集めている。出品期間の制限がなく、出品料がかからない点も魅力だ。2018年6月からは書籍やCDなどのバーコードをスマホで読み込むと、自動的に商品タイトルや参考価格が表示される「バーコード査定」も始まっている。
発送にも工夫がされており、メルカリはヤマト運輸と提携して、「らくらくメルカリ便」というサービスを行っている。宛名を書く必要がなく、送料が通常の宅急便よりも安い。郵便局と提携した「ゆうゆうメルカリ便」もある。こちらは小さなものを割安で発送できるものだ。
これまでの個人間売買では、互いの住所氏名などの個人情報が知られてしまうという問題があった。特に若い女性ユーザーの多いメルカリでは重大な問題であった。この課題を解決するため、メルカリでは匿名配送のサービスを行っている。送り先の住所が配送業者にしか知られないという仕組みだ。
メルカリはこうした徹底した手軽さを追求したサービスで、同業種のヤフオクと差別化を行っている。
メルカリの売上金は、現金ですぐに受け取ることができない。売上金はアカウントに貯まり、申請すれば銀行口座に振り込まれる。申請しない場合は、90日後に自動的に振り込まれるようになっている。現金化しない場合は、売上金をポイントに交換し、メルカリでの買い物に使うことができるが、一度ポイントに交換してしまうと現金化はできなくなる。
この仕組みには資金決済法が関係している。メルカリのアカウントに貯まった売上金をそのまま使って買い物ができる仕組みでは「送金」とみなされる可能性がある。その場合、メルカリ社は資金移動業者の登録が必要になり、全額分の供託金を預けなければならない。それを避けるため、メルカリポイントを払い戻しできない「電子マネー」とする仕組みを採用したと考えられる。この場合必要な供託金は半分で済み、ユーザーの売上金を事業資金として利用できる。
メルカリ社は2017年に金融関連サービスの子会社メルペイを設立している。メルペイはスマホ決済サービスを2018年度中に開始するとしており、これにより、メルカリの売上金を提携先の店舗で使えるようになる。この提携が普及すると、チャージ不要で「メルカリで売って店舗で買い物」という新しいキャッシュレス経済圏が生まれる可能性がある。
また、メルカリはメルカリポイントを利用して自転車が使えるシェアサイクル「メルチャリ」というビジネスを立ち上げている。「メルチャリ」によって様々なビジネスを結び付ける経済圏の拡大がさらに促進されることも、メルカリとしての狙いにあるだろう。
LINE、メルカリ各社はそれぞれ仮想通貨ビジネスに参入している。
LINEは、Q&Aサイト「Wizball(ウィズボール)」と予測サイト「4CAST(フォアキャスト)」で仮想通貨LINKを運用している。ウィズボールでは誰かの質問に対し、いい回答をするとLINKポイントがもらえる。フォアキャストでは「オリンピックで何個金メダルを取れるか」といったトピックに予想を投票する。予想が当たればLINKポイントがもらえる。
LINEはスマホアプリで広大な顧客基盤を獲得し、仮想通貨を利用したサービスを組み合わせることで、新たな経済圏を構築する構想を展開している。
「仮想通貨」という言葉は2000年頃から使われるようになった。現在日本では資金決済法で仮想通貨が定義され、「通貨」ではなく「財産的価値」とされている。金(ゴールド)と同様に「資産」なのである。
仮想通貨の特徴として、政府が発行・管理していないこと、価値が変動すること、紙幣や硬貨の形がないこと、インターネット上の支払いに使えること、利用者間で直接送金できることなどが挙げられる。
通貨は支払い手段だけでなく、「価値を測る尺度」や、今後のために貯めておくことができる「価値の保存」の役割も果たさなければならない。ところが仮想通貨は価値の変動が激しく、利息もつかないため、こうした役割は果たさない。したがって仮想通貨は「通貨」とは言えないのである。
戦争や内戦などで通貨制度が崩壊している国では仮想通貨のほうが信頼できる場合があるが、円は今のところ信用が高いので、日本には当てはまらない。また、仮想通貨は2018年10月時点で2099種類あり、いまだハイペースで増え続けている。金の資産価値の源は有用性と希少性だが、仮想通貨の資産価値はなかなか裏付けされない。
国内では三菱UFJ銀行が仮想通貨「MUFJコイン」を開発中だ。みずほフィナンシャルグループも地銀と共同で「Jコイン」を検討している。これらは利用者の抵抗感をなくすため、「仮想通貨」ではなく「デジタル通貨」と呼ばれている。スマホアプリでの送金やQRコード決済ができるため、キャッシュレス化に対応する仕組みとなる。普及は加盟店の数次第となるが、銀行間の強大なネットワークや営業力により加盟店は一気に増える可能性もある。
仮想通貨は送金の簡便化と値上がり期待の取引対象として成長してきたが、送金については今後セキュリティ性の高いシステムが求められる。仮想通貨が投資対象としての資産となるならば、その取引の社会的な意義が必要となるが、現在それに関しては不透明と言わざるを得ない。
LINEやメルカリのビジネスはうまくフィンテックを取り入れ、新しい経済圏を生み出そうとしている。この2社はモノやサービスだけの視点ではなく、キャッシュレス化やシェアリングエコノミーの流れも並行して進めている点で、これまでの企業になかった新たな可能性を感じさせる。
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