ビールの教科書

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出版社
出版日
2019年06月10日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

「プシュ」、「ぐいっ」、「ぷはーっ」といえば? はい、ご名答、ビールのことである。ビールは、もっとも手軽なアルコール飲料として、世界各地で楽しまれている。初めの一杯はビールと決めている方も多いのではないだろうか。

ビールといえば「生」であるが、いったい何をもって「生」といっているのか、みなさんはご存じだろうか。本書を読めば、そんな身近な疑問も解き明かされる。さらに、「すっきり」がアピールされる日本のビール市場において、大手メーカーがどのような製法や原料でビールを製造しているのかが、だんだん見えてくる。

本書は、ビールの歴史から始まって、世界のビール事情や、製造工程、原材料や鑑定法まで紹介する、非常に充実した一冊である。日本のビールの味に思いをはせつつ、外国のビールの味も想像していくと、面白さが広がっていく。

さまざまな情報のつまった本ではあるが、著者が大切にしているのはあくまで、うんちくを傾けることではなく、「ビール人生を楽しむ」姿勢である。この道のプロということで、会食の席で「このビールは美味しいですか」と聞かれることもあるそうだが、著者は「目の前にあるのが、一番美味しいビールですよ」と答えるという。

今や日本でも、地ビールが味の多様化に貢献し、様々なビールを楽しめる環境が整いつつある。そんなビールをいっそう美味しく飲むために大事なことを学び、「一度しかないビール人生を、悔いなく送る」ため、是非本書を活かしていただければと思う。

ライター画像
加藤智康

著者

青井 博幸(あおい ひろゆき)
1960年東京生まれ。京都大学大学院原子核工学専攻修士。フロリダ工科大学(MOT)修了。エンジニアリング会社勤務後、地ビール会社を創業。現在はアオイ&カンパニー株式会社代表取締役として経営コンサルティングを手がける傍ら、グロービス経営大学院教授を務める。全国地ビール醸造者協議会顧問。著書に『重要会議ではヅラをかぶろう――超・実践クリエイティブ経営』、『ビールの力』、監修書に『〈実況〉経営戦略教室』など。

本書の要点

  • 要点
    1
    ビールには、8世紀頃からホップが使われるようになった。ホップの抗菌性の高さが、それまで腐敗しやすかったビールの醸造を促進した。ビールはヨーロッパを中心に、地域別にそれぞれの発展を遂げた。
  • 要点
    2
    「生ビール」は、日本人の「生」へのこだわりと宣伝イメージの戦略上生まれた。仕上げに低温殺菌せず、フィルターで酵母を濾過して作られている。
  • 要点
    3
    麦芽の焙燥の具合で、ビールの色や味や香りが変わってくる。麦芽に加えて米やトウモロコシなどの糖質副原料を加えると、薄い、言い換えればすっきりした味になる。

要約

ビールの歴史

古代のビールの味は?
IakovKalinin/gettyimages

本書が目的とするのは、一般的な日本のビール好きが持つビールの常識を、一気に世界でビール通と思われる人が持つべきレベルまで引き上げることだ。

まずはビールの歴史をたどってみよう。歴史をさかのぼる上でビールの本質を定義すれば、それは「麦芽を主原料とする発泡性の醸造酒」となるであろう。史上最古のビールは、麦などの農耕の始まった8500年前から、楔形文字で「ビール造り」の記録が残された5500年前の間に造られたと考えられる。

当時のビールの味はどんなものだっただろう。現代のような圧力容器や冷蔵装置がなかったので、発泡性は乏しかったはずだ。徹底的な糖化(でんぷんのような高分子を、酵母が消化可能な大きさに変換する工程)は困難なため、甘味が残っていたと想像できる。古代エジプトでは、そこへさまざまなハーブを添加していたようだ。

古代エジプトでは、ビールは嗜好品というより、重要な食料の1つだったと考えられていたようで、労働者の報酬や、貨幣の代わりとして使われたという記録も残っている。

ホップの登場がビール醸造を変えた

ヨーロッパにおいては、いつごろなのかはっきりしたことは不明だが、早くからゲルマン民族がビールを造っていた。ヨーロッパの初期のビールは、大陸の「ビアー」と、英国の「エール」として、別々の発展の道を歩んだ。

「ホップ」がビールに使われだしたのは、8世紀頃のドイツが最初といわれている。ホップは抗菌作用に優れていたため、アルコール度数が低くて腐敗しやすかったビール醸造を大いに促進することになった。一方で、ホップは大量に使うと苦みが増えてしまうので、味を調えるための様々な工夫があったことが推察される。

ただ、英国では、役人の利権が絡んでおり、ホップは17世紀まで使用が認められなかった。

「エール」と「ラガー」
sufiyan huseen/gettyimages

ビールを大別すると、「エール」と「ラガー」に分かれる。この違いは酵母によるものだ。現在の世界的なビール市場で主流となっているのはラガーであるが、ラガーはエールよりも歴史が浅い。ラガー・ビールの製法は、15世紀後半にドイツのバイエルン地方で偶然に発見された。

今ではミュンヘンを中心とするバイエルン地方は「ビールの都」と呼ばれているが、当時はドイツ北部のアインベックなどの都市と比べてビールの品質が悪いと言われていた。しかし、16世紀の終わりに、いわば王室肝入りプロジェクトとして、バイエルン公国は立派な醸造所を作り、アインベックの醸造家を招いた。そうして、アインベックが本場とされていたボック・ビールのスタイルを引き継ぎ、バイエルンでも美味しいボック・ビールが造られるようになった。

さて、このバイエルン地方で生まれたボック・ビールは、現在では「ラガー・ビール」として定着しているが、実はアインベックで造られていた当初は「エール・ビール」であった。当時は酵母が微生物であるという認識すらなかったので、意図的にではなくおそらく自然の成り行きで、ラガー酵母が使われたものと思われる。そうして、アインベックの麦芽とホップを真似て、ラガー酵母を利用したボック・ビールが生まれたのだ。

産業革命にまつわるビールの歴史

英国では、独自にエール・ビールが洗練され、18世紀になると、三種類のビールをブレンドすることが流行した。そこで、すでにブレンドされた味のものを合理的に作ってしまおうということで、

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要約公開日 2019.08.31
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