仕事をしていると、「無礼だ」と感じるような態度をとる人に出会うこともあるだろう。どうやらそれは日本だけのことではないらしい。「アメリカの礼節2016」という調査によると、礼節の欠如が年々ひどくなっているという点で、すべての人の意見が一致した。
礼節が悪化している原因は何なのか。1つは、職場環境とそこでの人間関係の変化である。そして、悪意のせいではなく無知のせいで礼儀が失われている側面も無視できない。
著者は、ある調査で「自分は無礼な行動をとることがある」と答えた人に対して、その理由を直接尋ねている。半数以上の人は、「自分への負担があまりに重すぎるから」と答えた。そして40%以上が、人に対して礼儀正しくする暇はないと答えたそうだ。しかし、無礼な態度は伝染するうえに、人の記憶に残りやすいため、悪循環が生まれてしまう。
認識しておくべき点は、無礼な人には「コスト」がかかるということだ。そもそも、無礼な態度は人の健康に影響を及ぼすことが、近年の研究で明らかになってきた。無礼な態度は人の免疫システムを害し、循環器系の病気やガン、糖尿病、潰瘍などにつながる恐れがある。ストレスは人の寿命にまで影響を与えるという調査結果もあるほどだ。そのうえ、理不尽な扱いを受けた人は、集中力や注意力、思考力が著しく低下するため、それがミスを起こす原因にすらなる。
アメリカ心理学会の試算によると、職場のストレスによってアメリカ経済にかかるコストは、1年に5000億ドルにものぼるという。ストレスを感じながら働いている労働者は、そうでない労働者に比べ、医療費が46%も高い。そして、ストレスの大きな原因は人間関係にある。つまり、無礼な人がいれば医療費は高くなり、病欠が増えるといえる。さらには、そのせいで離職者が増えると、採用コストもかかってしまう。
このように、無礼な態度によって企業が被る損失ははかりしれない。
人を動かすリーダーというポジションにいる人は、恐れられていた方がよい。多少無礼であった方が成功しやすい。そう考える人は多いが、それは誤りだ。
著者たちの調査によると、礼節のある人、つまり他人の尊厳を認め、誰に対しても敬意をもって接する人の方が、周囲から「リーダーにふさわしい」という評価を受けやすいという。
礼儀正しく接する人には、多くの人が声をかけたいと思うようになる。そのため、情報やチャンスが巡ってきやすい。また、上の立場の人が礼節を重んじていると、従業員は安心感を得ることができる。人は尊重されると、自分に価値があると感じ、力を発揮できるのだ。
無礼な人が成功することもあるが、それは無礼なことが有利に働いたわけではない。大事なのは、ほんの少しの礼節を示すことが、成功する可能性を大いに高めてくれるということだ。
では、より礼儀正しくなるためには、具体的にどうしたらよいのだろうか。礼儀正しい人になるための基本動作を3つ紹介する。
1つめは、基本中の基本といえる「笑顔」だ。子供は平均して1日400回笑うとされる。だが、大人になると1日20回以上笑う人は、全体の30%ほどだという。科学的にも、笑顔は周囲の人たちの能力を高める力があることがわかっている。
2つめの基本動作は、「相手の存在を認め、尊重すること」である。特に、自分よりも目下の人に関心を向け続けることが重要となる。
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