Amazon、Apple、Facebookなどといった成熟したIT企業は、リーンでアジャイルな製品開発の一歩先を行っている。これらの企業の製品開発には、次の3つの原則が共通している。
(1)リスクには最後ではなく最初に取り組む
製品のリスクには次の4つがある。顧客が購入するかどうかという「価値のリスク」。ユーザーが使い方をわかるかどうかという「ユーザビリティーのリスク」。エンジニアが、持っている時間とスキルとテクノロジーで必要なものを作れるかどうかという「実現可能性のリスク」。そして、販売、マーケティング、財務、法律など、ビジネスのさまざまな分野でも問題がないかという「事業実現性」のリスクである。成熟した企業は、これらの4つのリスクについて、製品を作るかどうかを決める前に検討している。
(2)製品の定義付けとデザインは、順を追ってではなく、協調させながら同時に実行される
かつては、プロダクトマネジャーが要求事項を書き、デザイナーがそれを達成するソリューションをデザインし、エンジニアが実装するという流れで製品を開発していた。つまり、それぞれのポジションにおいて、先行する人の制約や決定にしたがって仕事をしていたのだ。一方、今日の優れた開発チームでは、3者が持ちつ持たれつの関係で協調して仕事をし、ソリューションを考え出している。
(3)機能を実装するのではなく、問題を解決する
従来の製品開発は、アウトプットがゴールだった。だが今日のチームは、根底にある問題を解決するソリューションを開発することがゴールだと知っている。
この3つは、本書を貫く大原則でもある。
従来の製品開発は、どのような製品をいつまでに市場に投入するというロードマップをベースに管理されている。ロードマップを作るのは経営幹部であり、製品のアイデアも幹部から開発チームに下りてくる。チームは納期に合わせてソリューションを作って品質保証に渡す。品質に問題がないことがわかると、リリースだ。これが現在でも圧倒的多数の企業のやり方であり、多くの製品開発が失敗する理由でもある。
新しい製品開発では、「製品発見」と「市場投入」という2つの活動が継続的に、並行して行われる。製品発見の目的は、作る価値が確実にあり、かつ実現可能性もあるアイデアを迅速に見つけ出すことだ。先述したように、「価値」と「ユーザビリティー」、「実現可能性」、そして「事業実現性」の観点からチェックされる。
製品の開発を迅速に、そして低コストで実施するために用いられるのが、プロトタイプだ。プロトタイプには、リスクや状況に応じてさまざまな種類があるが、原則として、作るために必要とする時間と労力が実際の製品よりも少なくとも1桁は小さくなくてはならない。
優れた開発チームは実際、期待する結果を得るために、常に製品のアイデアをプロトタイプによってテストしている。その数は週に10から20、あるいはそれ以上である。テストをクリアし、ビジネスとして成り立つと確認されたアイデアのみが製品化され、市場に投入されるのだ。
優れた製品開発組織は、開発チームの生産性を最大限に高めることを心掛けている。
製品チームの大きな目標は、シリコンバレーの有名なベンチャーキャピタリスト、ジョン・ドーアの言葉に象徴される。「私たちが求めているのは伝道師のチームだ。傭兵のチームではない」
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