紀元前9000年頃、農業が始まった。農業を取り入れた地域では、当時のGDPともいえる地域単位の総摂取カロリーの増大が始まり、狩猟採集社会とのあいだに格差が広がった。これが人類史上最初の「大分岐」である。
生産活動は、活動に必要な「インプット(投入要素)」と、活動によって生みだされる「アウトプット(産出物)」で説明できる。農業の主要なインプットは土地と労働であり、アウトプットが農作物だ。これは土地が広いほど、働く人が多いほど、より多くの農作物が収穫できることを意味している。
このように農耕社会では地域の生産量は上がるが、そのぶん子供が増え人口が増加するので、一人当たりのGDP(摂取カロリー)は変わらない。結果として、農耕民はいつまでたっても生活水準を向上させることはなかった。これを「マルサスの罠」という。
むしろ人々は農業を取り入れることにより、階級や戦争、飢餓、疫病、長時間労働、椎間板ヘルニアなど、さまざまな苦痛を引き受けることになった。かのジャレド・ダイアモンドは農耕の開始について、「人類史上最大の過ち」とすら表現している。
1776年、ジェームズ・ワットが蒸気機関を発明した。この技術によってイギリスを先駆けとし、1800年ごろから第一次産業革命が始まった。これが人類史上2度目の大分岐をもたらす。今度は工業社会に移行した地域と、農耕社会に留まった地域とのあいだで分岐が生じたのだ。前者はヨーロッパ・アメリカであり、後者は日本を除いたアジア・アフリカである。
工業におけるインプットは機械と労働であり、主なアウトプットは工業製品だ。アウトプットのうち、家計が消費する以外の部分を投資にまわして機械を増やせば、より多くの工業製品を作り出せる。このような循環的なプロセスにより、機械(資本)は無際限に増殖し、生産量も無際限に増大していった。まさに産業資本主義の誕生であり、著者はこれを「機械化経済」と呼ぶ。
こうして人々は、マルサスの罠をついに抜け出すことに成功する。一人当たりのGDPが増大し、生活はどんどん豊かになっていった。人類ははじめて、時を経るごとに暮らしぶりが向上していくという経済の仕組みを手に入れたのである。
このように機械化経済に移行した欧米諸国は上昇に向かう。それに対してアジア・アフリカ諸国の経済は停滞し、欧米諸国に収奪され、むしろ貧しくなった。途上国と先進国、植民地と宗主国、貧しい国と富める国。現在まであとを引く二極化は、この2度目の大分岐が発火点なのである。
次の大分岐をもたらすのは「汎用AI」だろう。ここで本書における言葉の定義を確認する。
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