それは突然やって来た。社員100名を超える運送会社の社長だった松平武志がガンになり、この世を去ることとなった。その緊急事態で後継者として白羽の矢が立てられたのが、武志の弟である主人公の松平遼である。
社長が変われば、経営スタイルや社員の意識、会社の風土、仕事の仕組みなどはおのずと変わる。社長交代後の経営に差し障りがあってはいけない。そう考えた武志は、あらかじめ新会社を設立して、弟の遼を新社長に据える段取りをつけていた。そうして遼は、思いもかけず、兄の遺志を引き継いで料理人から経営者に転身することになった。
新しい門出はいばらの道だった。資金繰りは悪く、入ってくるお金より出て行くお金のほうが多かった。会社にはほとんどお金がないうえ、金融機関から借りたお金をリスケ(返済条件変更)しているため、新たな融資を受けられない。しかも、元料理人の自分は経営のプロではないにもかかわらず、家族や社員の生活を守らなければならない。そんな重圧が遼の双肩にかかっていた――。
本書は、経営のイロハも知らなかった主人公が、経営コンサルタントの櫻田浩太郎に助けを借りながら会社を蘇らせていく、実話をもとにした奇跡のストーリーである。
遼が兄の会社を継いで新会社を設立後、黒字再建するまで、その間はわずか4年であった。資金が底を尽き、一時は金融機関から全く相手にされなくなった。そんな状態の会社が、いまや2億5000万の現預金を保有する超優良企業である。
この目を見張る復活劇の背景には、いったい何があったのか。もちろん、売上高は順調に伸びているが、実はそれが理由ではない。売上が伸びても利益が伸びるとは限らない。なぜなら売上と利益は全く異なるものだからだ。さらにいうと、利益が増えても、お金が増えるとは限らない。お金は増やそうとしなければ、増えるものではない。重要なのは、お金が増えるように利益を伸ばすことだ。
当初、会社にお金がないのは明白だった。しかし、遼にはその理由がわからないまま。ちょうど経理担当者が退社することになり、経営コンサルタントの櫻田の提案で、遼自身が経理を担当することになった。
遼は請求書や領収書とにらめっこしながら、会計入力を行っていく。「燃料費ってこんなにかかるのか」「近くまで行くのに高速を使っているな」「この得意先は入金サイクルが150日もあるのか」「コピー用紙を買いすぎだろう」。こうしたつぶやきは、社員をそわそわさせた。
遼は経理を通じて、会社のお金の流れをつかむことができた。だがまだ本質的な問題解決には至っていない。会社のお金を増やすにはどうすればいいのか。櫻田曰く、大切なのは、売上と入金、費用と支払は全く違うものだということを理解しておくことだ。
では売上と入金、費用と支払はどう違うのか。それは、売上と費用はお金ではないが、入金と支払はお金だということだ。また売上と費用を計上するタイミングと入金と支払のタイミングも異なる。そのため売上と費用の差額である利益と、入金と支払の差額である残高は一致しない。
何より遼を驚かせたのは、「利益は存在しない」という櫻田の言葉だった。利益には実体がない。その証拠に通帳のどこにも存在していない。利益は事業存続のために使われるコストとしてとらえる必要があるというのだ。
さらに、売上を伸ばしても、必ずしも利益が増えるとは限らない。逆に赤字になることさえある。利益を伸ばすカギとなるのは売上ではなく、実は限界利益なのだ。
限界利益とは、売上高から売上原価(変動費)を引いたものをいう。そこから固定費を引けば利益となる。限界利益が固定費を上回れば会社は黒字になる。要するに、会社の利益は限界利益と固定費の関係で決まるということだ。このことをわかっていないと、悲惨な結果を招いてしまう。
会社を経営するなかで遼が気になったのは、得意先別あるいは商品別にどれだけの儲けが出ているかだった。そこで、遼は損益表を自分なりに作成した。ところが、櫻田は、得意先別や商品別の損益を計算しても役に立たないという。なぜなら、遼が作成した損益表は、全部原価法で作成されていたからだ。
たとえば、燃料費を運送原価に含んでいたとする。もし敷地内にミニガソリンスタンドがある会社なら、未使用の燃料が在庫として計上されることになる。その結果、売上総利益にこの在庫が加味され、実態以上に利益を押し上げてしまうことがある。そもそも全部原価法は税金計算のためのものであり、経営判断に適したものではないのだ。
損益計算書も同様に、経営判断の資料としてはふさわしいものではない。なぜなら、損益計算書が引き算だけで作成されているからだ。具体的には、売上から原価、販売管理費を引いて営業利益を算出し、そこに営業外収支を加味して経常利益を算出する。そうすると、最後の利益を増やすためには、表の一番上にある売上を増やすか、引き算の対象となる原価や固定費を減らすという発想しか出てこない。それでは利益を増やす効果的な方法は見つけられない。
では、どのような資料が経営に適しているのだろうか。それは、数量比例の科目だけを変動費として計算している損益計算書である。固定費を配賦せず、得意先別の一ルートあたりの単価と変動費を数量比例で作成した表であれば、利益に至るまでのプロセスが目に見えてわかる。そうしてはじめて、利益を増やすための方法を考えられるのだ。そこで必要な情報は次の4つである。「一商品あたり販売単価」「一商品あたり変動費」「一商品あたり限界利益」「販売数量」だ。
管理会計の専門家を含めて、外注費は変動費だと思っている人が多い。だが実は、外注費は変動費ではない。なぜなら仕事を外注に出すかどうかは人が決めているからだ。それは意思決定の結果で決まるものであって、数量に比例するとは限らない。
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