いかに気を散らさずに目の前の作業に取り組むか――古より人類が悩み続けてきたこの問いについて考える前に、まず集中力の正体を知っておく必要がある。
たとえば、勉強する場面を例に考えてみよう。テキストを開いたはいいが、いつの間にかメールチェックで30分が経過していたなんてことはないだろうか。作業に取り掛かるまでが最初の関門なのだ。そこを突破するには、「自分は難しいことでもやり遂げられるのだ」という「自己効力感」と、やる気を引き出して気持ちを高めていく「モチベーション管理能力」が必要となる。
次に待ち受けているのは、勉強に意識を向け続けるという試練である。ここでは「注意の持続力」が求められる。
最大の関門が誘惑だ。スマホの通知や買ったばかりのゲームなどといった外的誘惑だけでない。テキストに「チンギス・ハン」という単語を見つければ、その単語から連想される記憶が自然と呼び起こされる。ここでは「セルフコントロール能力」が求められる。
多くの人は、これら一連のプロセスにおける複合的な能力を「集中力」と認識している。だが実際には、「集中力」という単一の能力は存在しない。
本書では、「集中力」の全体像をつかむために、人間の本能と理性を比喩的に「獣と調教師」と表し、集中力との関係性を見ていく。
まず「獣」と集中力の関係を見ていこう。内なる獣には3つの特性がある。
まず、「難しいものを嫌う」だ。これは、エネルギーの浪費をふせぐためだ。食物が見つからずに飢えそうなとき、急に猛獣に襲われたとき、伝染病にかかったときなど、いざという場面でエネルギーを残していなければ、人類は死に絶えてしまう。進化の過程で、エネルギーを保存するようになっていったのだ。現代の高度化したタスクに集中できないのは、当然といえば当然のことだろう。
次に「あらゆる刺激に反応する」だ。獣は情報の並列処理が得意なので、日々のあらゆる刺激が獣の注意を引いてしまう。人間の脳が受け取る情報量たるや、1秒間に1100万件を超えるという推計もあるほどで、なかでも五感に訴えかけるものには意識のスイッチが優先的にオンになるようにプログラムされている。
最後に、「パワーが強い」だ。いったん獣に乗っ取られてしまえば、あやつり人形のごとくなすすべがない。集中力は簡単に途絶えてしまう。
一方「調教師」は、進化の過程で「獣」に対応する別の3つの特性を持ち得た。
まず、「論理性を武器に使う」だ。
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