ミルトン・フリードマン(1912〜2006)は、20世紀を代表する経済学者であるとともに、自由市場経済の重要性を説いた経済思想家であり、世界中に与えたその影響は没後も強く残っている。1976年にはノーベル経済学賞を授与され、死後10年以上経った今日でも、フリードマンは思想的な立場を問わず非常に高い人気を誇っている。彼の研究や思想には反対の立場を取る学者や政治家でも、その方法論や考え方に対する尊敬の眼差しは共通している。
フリードマンの活動の幅は経済に留まらず、教育バウチャーや負の所得税などのユニークな政策提言を行うなど、自由主義の思想家としても活躍した。教育バウチャーとは、子どもを持つ保護者に公立・私立を問わず使用できる学校教育の利用券を支給し、自由な学校選択ができるようにする制度であり、負の所得税とは、所得が基礎控除額を上回るときは従来と同じように税金を払うが、所得が基礎控除額を下回るときは補助金を受け取れる制度のことである。
ただし世界における彼への評価とは裏腹に、日本におけるフリードマンへの評価は決して高くない。しばしば国内において見受けられる彼への「市場原理主義者」や「弱者切り捨て」といったレッテル貼りの多くは、根拠が乏しいだけでなく、事実誤認が含まれていることが多い。実際のところ、フリードマンの言説は正しく理解されていないというのが国内の現状だといえる。
フリードマンは1912年にニューヨークでユダヤの家系に生まれ、学生時代は数学に傾倒し、保険数理士を目指していた。しかし30年代前半の恐慌のどん底にあった当時、喫緊の課題に関わりたいという思いから経済学を専攻し、経済学者としてのキャリアをスタートさせた。
フリードマンの考え方は一貫して、イデオロギーではなく事実から自由市場の有用性を提唱し、価値観ではなく実証分析によって明らかになった事実にもとづき、人々の合意を目指すというものだった。当時主流だった大規模計量経済モデルをフリードマンは使わず、国際比較や歴史的な分析といった幅広いアプローチから実証的な分析を行い、現実の経済問題の解決に貢献した。
フリードマンといえばマネタリストとして知られるが、その最も大きな業績のひとつは大恐慌に関する分析で、「金融政策が景気と物価に大きな影響を持つ」というのを実証したことだろう。それまで主流であったケインジアンの見方では、貨幣に重要性は見出されていなかった。ここでフリードマンが主張したこと、すなわち「インフレーションは貨幣的現象である」といったことなどは、現在のマクロ経済学主流派であるニュー・ケインジアンにも共通認識として受け入れられている。
日本においてマネタリズムの評価はきわめて低い。しかしこれは、いまではどの中央銀行でも使われていない「k%ルール」が、マネタリズムの理論的命題と混同されているためだといえる。
3,400冊以上の要約が楽しめる