ソニーのウォークマンに代表されるように、かつて日本の製品はイノベーティブだった。日本企業がイノベーションを生み出せなくなったのは、この20~30年ほどの話だ。
では、なぜ日本企業はイノベーションを生み出せなくなったのか。その理由は、「社内で新規事業をやらなくなったから」というシンプルなものである。さらに言えば、社内の新規事業に「投資をしなくなったから」だ。
バブル崩壊や失われた10年、リーマンショックなどにより、短期的な利益が見込める既存事業に集中してきた日本企業だが、今は不景気を乗り越え、投資余力が出てきている。それなのに、社内の新規事業への投資は再開されないまま、スタートアップ企業など社外への投資予算が増えている。
日本企業がかつてのようにイノベーションを生むには、社員と社内プロジェクトへの新規投資をしなければならない。
どんな会社であっても、きちんと投資を行えばイノベーションを生み出すことができる。そして、どんな「ふつうのサラリーマン」でも、イノベーションの担い手になれる。ただし、そのためには適切なプロセスを踏まなければならない。
まず、WILL(意志)を形成することである。WILLとは「誰の、どんな課題を、なぜあなたが、解決するのか?」という3つの質問に対する回答である。
この3つの質問に対して、最初から明確な答えを持っている必要はない。WILLは、ゼロの状態からでも作り出すことができる。最初にすべきことは、その一歩を踏み出すことだ。
人は、「とある行動・経験」を重ねることで、覚醒し、社会や業界、顧客課題の解決のために動き出す。このプロセスを著者は「コップから水があふれる」と表現する。「とある行動・経験」を重ねていくことを「コップに水を注ぐ」と捉えると、水があふれ出した瞬間に人は動き出す。この瞬間を、著者は「原体験化」と呼ぶ。
では、「水」に相当する「人を原体験化に導く行動・経験」とは何か。それは、「ゲンバ」と「ホンバ」に行くことだ。
ゲンバとは、「課題の根深い現場」のことだ。ゲンバに行くことで、取り組み領域が明確化されていく。ゲンバの一例として、東日本大震災直後の宮城県女川町(おながわちょう)が挙げられる。ボランティアとして現地を訪れた人が現地の人と対話することで、たくさんの起業家が生まれた。
ホンバとは、「新規事業開発の最前線」のことだ。ホンバに行くことで、WILLの形成が加速度的に速まっていく。テクノロジー分野におけるシリコンバレーや深セン、イスラエル、エストニア、企業における東京のスタートアップ企業や先進的な大手企業の社内ベンチャーもホンバと言える。
ゲンバとホンバを往復することで、原体験化へと近づくことができる。ゲンバで課題を把握し、ホンバで視座の高さや技術を体感し、またゲンバに戻る。その繰り返しによって、コップの中に水が溜まっていく。
新規事業開発は、一人ではできない。社内外の人を巻き込み、チームをつくる必要がある。では、新規事業を立ち上げようとしたとき、どんな人を口説くべきだろうか。
創業メンバーを選ぶ上で重要なポイントは「人数」と「役割」にある。一言で言うと、新規事業開発の創業メンバーは「WILLが同じで、役割の異なる少人数を選ぶ」のが王道だ。
まず、人数に関しては3人以下がベストである。創業チームの強さはコミュニケーションスピード、チームレジリエンス、マンパワーから構成される。メンバー人数が多くなるほど、情報を共有するスピード(コミニケーションスピード)は指数関数的に落ちてしまう。一方で、メンバーが多いほど、困難を乗り越える力(チームレジリエンス)と処理できる業務量(マンパワー)は増大する。
次に、役割だ。新規事業においては、少ない人数で難易度の高い業務をこなさなければならない。まずは、事業で必要となりそうな役割を書き出してみよう。そして、声をかけようとしているメンバーで業務をこなせるかどうかを検討する。その上で、「数ある役割のうち、その事業を立ち上げるにあたって、絶対に外部に委託することができない役割は何か」を考える。「外部に委託しない」とした役割こそが、その事業の競争優位性の源になっていく。
創業チームには、必ず備えるべき3つの力がある。これらのうちどれか1つでも不足すると、タイミングやアイディアがよくても、事業は立ち上がらない。
1つ目の力は、Network(ネットワーク:異分野をつなぎ、ネットワークする力)だ。自分とは異なる分野の人たちと人間関係を構築する力である。
2つ目は、Execution(エクゼキューション:あらゆる業務を、圧倒的に実行し、やりきる力)である。この力が欠けていると、新規事業は形になりえない。
3つ目は、Knowledge(ナレッジ:深く広い知識と教養を継続的に身につけていく力)だ。深い教養に加え、これから取り組もうとする領域に関する個別の知識が必要となる。
新規事業が育っていくプロセスは、6段階に分けられる。重要なのは、そのステージでやるべきこと「のみ」をやり、他のステージでやるべきことを、決してそのステージでやらないことだ。
1つ目のステージは「ENTRY期」である。
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