ビジネスシーンは、想像を絶するスピードで変化している。デジタル化に伴い、生活はさま変わりしている。今後もさらなる技術革命が進むだろう。
その一方で、加速度的な変化に対し、我が身を振り返るとどうだろうか。変われない自分。変わらない自分。いま所属する組織でしか働くことができない自分。もちろん、「変わらない」ことで逃げ切る生き方もあるだろう。
著者もかつては、手ごたえのなさを感じつつ、モチベーションが低下した日々を過ごす、「ミドルの憂鬱」に陥っていたことがある。組織で働く人が直面する停滞状態を、「キャリア・プラトー」という。これ以上のキャリアアップが見込めずに頭打ちになった状態である。そんな著者がミドルの憂鬱から抜け出すきっかけになったのが、「プロティアン・キャリア」との出会いだ。
「プロティアン・キャリア」とは、社会や環境の変化に応じて柔軟に変わることができる変幻自在なキャリアを意味する。思うがままに姿を変えられる、ギリシア神話に登場する神プロテウスが、その語源になっている。
従来型のキャリアは、昇進、昇格、収入、地位、権力、社会的安定などが右肩上がりに上昇・増幅していくモデルだ。それに対し、個人が主体的にキャリアを形成し、柔軟に変化させていくのが、プロティアン・キャリアである。
プロティアン・キャリアの概念が提唱された当時、日本は高度経済成長の真っ只中にあった。「働く=終身雇用」が基本で、転職は会社への裏切り行為という風潮があったのだ。
そのため、一社の中でキャリアを積んでいく、「組織内キャリア」が注目されていた。組織内キャリアの根底にあるのは、組織が個人のキャリアを育成し、組織の生産性を向上させるという発想だった。当時は、プロティアン・キャリアの概念をきちんと評価できるような環境ではなかったといえる。
近年、プロティアン・キャリアが注目される土壌が整いはじめている。国は、70歳までの雇用を、企業の努力義務として発表した。その一方で、大企業のトップや経済連の会長からは、「終身雇用を守ることは難しい」という発言が相次ぐ。国は70歳までの雇用を求めるのに対し、企業は終身雇用が厳しいと主張しているのだ。
そこで、雇用される側には2つの選択肢が考えられる。1つは、「企業は終身雇用をすべきだ」と主張し続けることだ。もう1つは、今後の方向性を理解したうえで、自ら対応策を練ることである。本書では、後者の立場で、50年間いかに働き続けていくかを考えていく。
主体的にキャリアを形成するアクションとして増えてきているのが、次の3つのアプローチである。まずは、社員が部門や役職、事業所などの境界線を越えて、会社に貢献する「バウンダリレス・キャリア」である。次に、本職を持ちながら第二のキャリアを築く「パラレル・キャリア」だ。そして、「副業・兼業」である。
企業側は今後、終身雇用を維持できないという姿勢を明確に打ち出してくるだろう。同時に社員には、自律的に稼げるスキルを身につけるように求めてくるはずだ。
組織内キャリアを磨き上げても、会社は生涯保障をしてくれるわけではない。企業と労働者の両方が、キャリアを抱え込むことに限界を感じ始めている。そこで新たに脚光を浴びているのが、プロティアン・キャリアなのだ。
プロティアン・キャリアの戦略を練る際には、組織戦略の考え方を参考にするとよい。そして、プロティアン・キャリアの本質は、変化しながら経験を蓄積する内面的な変身だ。そのベースには、自らのやりがいや目的を達成することで得られる心理的な成功がある。プロティアン・キャリアを形成するためには、個人の「キャリア資本の蓄積」に力点を置かなければならない。
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