人間がつくったものには、すべてデザインがある。つまり、世界はデザインでできているのだと言える。世の中には商品パッケージやポスター、広告、CMなど、デザインがあふれている。そこには「商品を買ってほしい」「メッセージを読みとってほしい」など、様々な目的があり、必ず「デザインの意図」が存在する。
商品広告は、見る人との距離によってデザインが変えられている。遠くから目にするビルボードは大きい文字やロゴを使ったシンプルなデザインに、歩きながら見ることの多い駅貼りポスターは写真などビジュアルに訴えるデザインになっている。逆に、電車の中吊り広告は乗車中にある程度時間をかけて読むものなので、文字数が多くても問題ない。
また、新聞は読み手が「読もう」という気持ちを持って向かい合うものなので、文字数の多さや文字の小ささが問題にならない。読み手との心の距離が近いため、広告も読んでもらいやすい。雑誌も同様に「読ませるメディア」だが、新聞よりもターゲットが細分化されており、読み手に合わせた広告や誌面づくりがされている。
最近は電車に乗っていても中吊り広告よりスマートフォン(以下スマホ)を見る人が多くなり、そうした変化に合わせて広告の在り方も変化している。
スマホは「その場で買う」という行動を起こさせることが可能だ。そのため、広告との距離感や見え方が他のものとは違っている。「つい買ってしまう」ことが起きやすくなり、広告が消費行動に直接影響するようになった。そのため、スマホの広告デザインには「タップされやすいデザイン」が意識される。スマホは「距離が一番近いメディア」、もしくは、「距離に自由を与えたメディア」と言えそうだ。
今、世界はスマホを中心に動いている。スマホはライフスタイルの中心にあり、行動に必要不可欠なものとなった。そして、様々な価値観が変わった。
たとえば、スマホを通じたインスタグラムの普及により、写真の形の在り方が変わった。従来、写真は縦長か横長のどちらかだったが、正方形の写真が一般化することになったのだ。このため、「縦か横か」で迷うことがなくなり、撮るスピードも上がった。加えて、スマホアプリのアイコンは正方形や丸など、縦長、横長が関係ないものが多いため、近年は「正方形に収めてほしい」というデザインの依頼も増えた。スマホが持ち込んだ文化は確実にデザインの世界に変化を与えている。
デザインは、正解があるというものではない。しかし、どうやったら「正解をつくる」ことができるのか、本書では考察されている。その中からいくつかの方法を紹介しよう。
デザインの中に「誰かに伝えたくなる」要素を入れることは重要だ。「伝えやすい形」でつくると、説明しやすくなり、納得感のあるデザインになる。
例えば著者は、立命館大学のコミュニケーションマーク(ロゴ)をつくるという依頼を受けたとき、アルファベット一文字に「黄金比」を用いることにした。黄金比とは、古来から使われている美観を与える比率のことだ。このように、なるほど、という要素が一つあると、顧客へ提案する際に納得感が生まれやすい。
さらに言えば、デザインを決定する会議の場には最終決裁者がいないケースが多い。後から担当者が最終決裁者に伝える際、説明しやすいストーリーをデザインの中に入れ込んでおくことも大切だ。
長年使われている特定の色や形の組み合わせに、ブランドが感じられることがある。例えばオレンジ色の背景に黒字なら吉野家だし、白と青に黒縁ならBMWといった具合だ。新しい商品でも、この「信頼感」を利用して購買を促すこともできる。
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