リブラ(Libra)は米SNS大手のフェイスブックが発行を計画する、新しいデジタル通貨だ。デジタル通貨自体は既存のサービスとして周知のもので、現金が主流の日本でも電子マネーやスマートフォンでの支払いサービスがかなり根付いてきた。ビットコインに代表される仮想通貨もデジタル通貨だ。しかし、リブラは以下のような点で、これらの既存デジタル通貨と大きく異なっている。
1点目に、一国にとどまらないグローバル通貨であるということ。2点目に、価格安定のため、主要通貨のバスケットと連動して価値が決まるということ。そして3点目に、大手プラットフォーマーが主導しているということだ。
フェイスブック関連のアプリは、世界総人口の約37%が利用しているので、リブラは支払い手段として一気に世界中に広がる可能性がある。
ビットコインなどの仮想通貨はグローバルに利用されているが価格変動率が非常に高いため、投資・投機商品としては良いが、決済には利用しにくい。一方で、リブラは通貨の「バスケット」、つまり、「ウェイト付けされた複数通貨のレートを加重平均して算出した価格」と連動するため、変動が小さくなる。
また、リブラはその発行と消却を、スイスに設立されたリブラ協会が担う。リブラ協会には、フェイスブックの子会社カリブラ社やテクノロジー企業が参加する。リブラ協会は、発行するリブラと同じ額を主要通貨建てで持ち、これをリブラ・リザーブと呼ぶ。こうすることでリブラは高い信用力を持つことになり、リブラ協会は中央銀行に近い役割を果たす。
リブラ計画についてフェイスブックが強調しているのが、「金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)に貢献する」という点だ。確かにリブラは銀行口座を持たない人(アンバンクト:unbanked)に、簡単に金融サービスを提供することができる。現在の決済システムは、とりわけ貧困層にとってコストが高いものであることは否定できない。
しかし、狙いは他にもある。フェイスブックは個人データ流出事件等による規制強化と、それに伴うコスト増加により、既存のビジネスモデルの修正と新たな収益源の確保が必要となっていると見られる。仮に、世界人口に占めるフェイスブック利用者と同率で、世界の現金発行額の一部がリブラに替えられるとすると、金額は約11.5兆ドル(約1240兆円)に達する。リブラ協会は同額の資産をリブラ・リザーブに保有するが、仮に全て米国短期国債で保有すれば、年利2%程度の利子所得が発生するので、2300億ドル(約25兆円)を受領することになる。リブラ計画は相当に儲かる可能性が高いビジネスと言えるだろう。
世界の人口の約23%の人は金融サービスを受けることができない「アンバンクト」だ。アンバンクトは新興国に集中しており、口座を使うほど資金がない、信用力が低くて口座を開設できないといった事情がある。
アンバンクトの約2/3は携帯電話を所持しており、その中でインターネットにアクセスできる人は多くないものの、電話やショート・メッセージを使って金融サービスを利用することはできる。政府が個人に対する支払いをすべてデジタル手段にできれば、アンバンクトを最大1億人減らすことができると世界銀行は推計している。
デジタル通貨について、IMF(国際通貨基金)は、ユーザーの利便性や同時偏在性などの6つの特長を挙げている。その中でとりわけ重要なのがネットワーク効果だ。多くの商品や個人が、ある特定のデジタル通貨を利用すれば、そのデジタル通貨の利用価値が高まり、より多くのユーザーが集まるという効果のことである。このネットワーク効果は、リブラ拡大の大きな原動力になるものであり、すでに強大なネットワークを持つプラットフォーマーが金融ビジネスに参入する理由でもある。
世界では通称GAFAと呼ばれるデジタル・プラットフォーマーがSNS、ネット検索・閲覧、電子商取引などのネットサービスをほぼ独占している。プラットフォーマーが提供するサービスの代表的なものは、無料サービスや利用者がサービス提供者となる構造などだ。
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