多くの日本企業では、「新規事業」を担当することに対して後ろ向きになる人が多い。しかし事業の失敗がそのまま「企業としての死」につながるスタートアップと違い、企業内でのイノベーションには、さまざまな安全弁が備わっている。資金面、人材面、技術面などでベンチャー企業にはないアドバンテージがあり、本来ならばもっと果敢にチャレンジが行われていいはずだ。なぜ新規事業には、ネガティブなイメージがつきまとっているのだろうか。
企業発イノベーションが継続的に創出できないのは、組織構造に問題があるからだ。これを解決するためには、イノベーションを行う事業部とコアビジネスを担う事業部を階層分けしなければならない。新規事業を既存事業と同じ軸で評価していては、新たなビジネスの芽が摘み取られてしまう。新規事業には、既存事業とはまったく異なる評価軸が必要なのだ。
一方で、組織の変化が必要ならば、現場レベルではできることはないと考えがちだが、決してそうではない。たしかに継続的イノベーションを行うには、組織変革が不可欠だ。しかしトップが変わることに加えて、現場からのボトムアップの働きかけも重要である。現場、マネージャー、経営陣が足並みをそろえ、「共通言語」を使っていかなければならない。
多くの日本企業では誤って認識されているが、「イノベーション=技術革新」ではない。イノベーションの本来の目的は、「ユーザーの生産性」や「ユーザーの生活の質」を劇的に向上させることである。かつては「技術を駆使した高機能なもの=いいもの」という図式が成立した。しかしデジタル化・クラウド化・モバイル化により、状況は大きく変化している。もはや技術力だけで勝ち続けることは不可能だ。ユーザーとの対話を継続的に行い、ユーザーの気づかない価値を提供する力が求められている。「未来を自らの手で創る」ことこそが、イノベーションに関わる仕事の本質だ。
イノベーションには2つの型がある。1つ目は「持続的イノベーション」だ。これは既存の製品やサービスの改善、改良を指す。既存の顧客の顕在化したニーズに対して、顕在化したビジネスモデルで、より効率的なプロダクトやサービスを提供することが目的だ。
2つ目は「破壊的イノベーション」である。これは既存のプレイヤーが築いてきた秩序を破壊し、市場そのものを再定義するもののことだ。この種のイノベーションは、従来のビジネスが見落としていた本質的な課題の発見や、従来のやり方を何十倍も超える効率性の提案から始まる。あらゆるビジネスやプロダクトは、この破壊的イノベーションから始まっている。破壊的イノベーションは、市場のルールそのものを変えてしまう。
多くの企業は「イノベーション」と言うとき、持続的イノベーションをイメージしている。しかしそれだけに捉われていてはいけない。
イノベーションは「目的」ではなく、「手段」である。問題を抱えている現状があり、それを自分たちが思い描くビジョンに近い姿へ変えていく、そのための手段がイノベーションというわけだ。そもそもビジョンが思い描けていなければ、手段が目的化してしまう。
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