新版 人は、なぜ他人を許せないのか?

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新版 人は、なぜ他人を許せないのか?
出版社
出版日
2024年06月18日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

インターネットが普及した今、世の中の出来事を知るのは非常に簡単になった。それは裏を返せば、良いことも悪いことも、瞬く間に広がってしまうということでもある。特に芸能人の不祥事、スキャンダルなどは格好のネタとなる。

そんなときに必ず起こるのがSNSなどでの「炎上」である。問題の当事者でもないのに、行き過ぎたコメントもあるわけである。彼らの指摘は間違ってはいない。だが、それをわざわざ全世界の人々が見られる場で、そこまで攻撃的な言葉で叩く必要があるのか。

脳科学者として活動し、多くの著作をもつ著者・中野信子氏は、そのような状態を「正義中毒」と呼んでいる。この言葉を目にしたとき、衝撃を受けたと同時に、どこか腑に落ちる感覚があった。「そうか、あれは中毒状態なのか!」と。

怖いのは、誰しもが正義中毒に陥る可能性があるということだ。他人に「正義の制裁」を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、快楽物質のドーパミンが放出される。すると、罰する対象をさらに探し始めるようになってしまう。本書を読むと、それが他人事ではないと身をもって感じられる。こうした負の状況から距離をとるために、できることは何なのか? 「許せない」と思ってしまう人間の脳の仕組み、穏やかに生きるために著者が推奨する脳のトレーニング方法など、本書の内容は知っておきたいことばかりだ。正義中毒への処方箋として、モヤモヤや生きづらさを感じている方に本書をおすすめしたい。

著者

中野信子(なかの のぶこ)
1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所に博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。現在、東日本国際大学教授。著書に『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』『人は、なぜさみしさに苦しむのか?』(アスコム)、『サイコパス』(文藝春秋)、『脳の閣』(新潮社)、『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    他人を許せない「正義中毒」には、誰もが陥る可能性がある。人間は脳の構造上、自分の属している集団以外を受け入れられず、攻撃しやすい傾向にある。
  • 要点
    2
    社会全体で「正義中毒」の方向へと突き進むと、多様性を狭めてしまうことになり、非常に危険だ。
  • 要点
    3
    正義中毒から自分を解放させるには、普段から前頭前野を鍛え、メタ認知の力を身につけることが重要となる。

要約

誰もが陥りかねない「他人を許せない」状態

正義中毒とは?

「清純派キャラの女性タレントが不倫をしていた」。「大企業がCMで差別的な表現をした」。こうした状況は、自分や身近な人が直接不利益を受けたわけではない。だが、面識もない相手に攻撃的な言葉をあびせ、叩きのめさずにはいられない。そんな状態に陥っているとしたら、それは、正義におぼれ、「許せない」が暴走してしまっている状態だ。著者はこれを「正義中毒」と呼ぶ。

正義中毒は誰しもが簡単に陥る可能性がある。とりわけ、ネットやSNSの世界では顕著だ。SNSの広がりが正義中毒を顕在化させ、より強めている。

また、自らの正義をふりかざす快感を味わいつつも、同時にそんな自分を許せないと感じている人も多い。このような相反する感情に苦しめられていては、とても幸せな状態とはいえないだろう。

多様性を狭めた集団は滅亡に向かう
00Mate00/gettyimages

正義中毒の人たちは、一見独自の理論、独自の正義をもっているように見える。だが実際は、自分がターゲットにされることを恐れて、多数派に流れているケースも多い。例えば、Aを「不謹慎だ!」と叩く論調が主流になると、異なる意見を言いにくくなってしまう。

しかし、社会全体でこうした流れに乗り、多様性を狭めてしまうことは、非常に危険である。多様性を狭めることで、短期的には生産性や出生率が上がる。しかし、進化の歴史で見ると滅亡へと向かってしまう。例えば、ある企業では、強引かつ話術の巧みな営業担当者が好成績をあげているため、そうした人材ばかりを集めているとする。だが、ある日規制が強化され、そのような営業ができなくなったとしよう。その企業に、一人でも温厚でロジカルな営業担当者がいれば、営業活動を続けられる。だが、そうした人材の多様性がない場合、その企業は厳しい局面を迎えることになるだろう。

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要約公開日 2024.07.26
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