トランプ大統領の誕生、EU離脱、セクハラやパワハラ、そして政治腐敗や既得権益の蔓延にいたるまで、「おっさん」たちはさまざまな問題において悪役にされ、責められてきた。特に英国では、労働者階級のおっさんたちは「けしからん」存在とみなされ、時代遅れで排外的で、EU嫌いの右翼的愛国者だとされている。
一方、労働者階級のおっさんたちと親交の深い著者は、一口におっさんと言っても、さまざまなタイプがいることを知っている。彼らは「おっさんたちは道を開けろ」と言われても、ワイルドサイドをよろよろとほっつき歩いている。彼らだって一介の人間なのだ。
文化社会学者であるポール・ウィリスの著作『ハマータウンの野郎ども――学校への反抗・労働への順応』(ちくま学芸文庫)では、英国の労働者階級の子どもたちが、反抗的で反権威的でありながら、自ら既存の社会階級の中にはまっていく様子が研究されている。本書では、『ハマータウンの野郎ども』から40年余りを経た現在、すっかりおっさんとなった当時の子どもたちと同世代である、現実の「野郎ども」に焦点を当てる。
まず登場するのは、EU残留派と離脱派の対立の縮図を見せてくれる、著者の連合いの幼なじみであるレイだ。1956年にロンドンのイーストエンドで誕生したレイは、典型的な労働者階級の家庭で育ち、中学校卒業後、自動車修理工場で働いていた。30代で自分の修理工場を開くも倒産。その後、路上でトラブルを起こした車を修理するための派遣修理工として勤務することとなる。
ストレスが多い仕事のためか、レイはいつしか酒に溺れがちになり、肝臓を患う。医者からの忠告で断酒を決意するも、病院から出ると妻子が蒸発していた。
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