本書のコンセプトは、「時間の使い方に戦略をもつことで、フルライフ(充実した人生)を実現する」ことである。時間には限りがあるため、やりたいことを全部やろうとすると、中途半端になってしまい後悔が生まれる。逆にやりたいことを取捨選択したとしても、今度は捨てた選択肢に対する後悔が生まれてしまう。限られた時間のなかで充実した人生を築いていくには、確信を持って前に進んでいくための「時間戦略」が必要になるのだ。
ここでいう戦略とは、ものごとの重心のことである。著者はフルライフを実現するための時間戦略について、Well-DoingとWell-Beingの重心を見つけることだとしている。「Doing(する)」とは、明確な責任にもとづき、役割や責任を果たすことだ。たとえば考えること、会議、仕事がこれに当てはまる。一方で「Being(いる)」とは、特にそうした目標を持たずに過ごすことである。仕事中の雑談やプライベートの時間がこちらに当てはまる。この2つの時間をよりよい状態に保ちながら、限られた時間のなかで、Well-DoingとWell-Beingを最適に配分する。これこそがフルライフの重心をつかむということだ。
Well-Being度が高い職場は、Well-Doing度も高いことがわかっている。Well-Being度が高まると、従業員の健康増進やモチベーション向上を通じて、生産性と収益性が向上するのだ。
それでは職場のWell-Beingの重心は何なのか。それは「信頼の文化」に他ならない。「信頼」とは感情的な結びつきを含む、双方向の関係性のことだ。一方向の理性的な「信用」とは異なり、「信頼」は多少のアクシデントでは揺らぐことのない連帯感を生み出す。
信頼の文化を形成するうえでは、次の3つのポイントに重点を置きながら、コミュニケーションをとるとよい。
・仕事は順調ですか?
・人生は順調ですか?
・ご家族は幸せですか?
1つ目の質問は、日々の仕事において学びや変化があるかの確認である。人はたとえ成果が出ていても、ルーティンの繰り返しだけでは順調とは感じられない。この質問は、1週間に1回ぐらい聞くとよいだろう。
2つ目の質問は、半年に一度ぐらい聞くと効果的だ。「たまには仕事から離れ、でかい話でもしよう」というノリを持ち込むようにしよう。
3つ目の質問は、プライベートに踏み込むことになる。日頃から進んで、自分のことを話しておくのが望ましい。
信頼の文化を築くためには、このように仕事・人生・プライベートの全方位に気を使うべきである。そうすれば相手は「ひとりの人間として認められている」と感じ、信頼の文化が醸成されていく。
まずは、長い仕事人生における時間戦略の全体像を確認したい。
最初にやってくるのが「ハードワーク期」だ。下積みにあたるこの時期は、仕事をしても成功(=社会的なインパクトの大きさ)を勝ち取ることは難しい。
次に訪れるのが「ブランディング期」である。周りからの信頼を集め、仕事の幅を広げるこの時期は、急カーブを描くようにして、加速度的に結果が出始める。
そして最後に訪れるのが「アチーブメント期」だ。自分の仕事をどんどん社会に還元するようになる時期である。このフェーズに到達するのは、早い人で50歳前後だろう。
次に、それぞれの時期でどこに重心をおくべきか、すなわち誰の「信頼」を得ながら仕事をすればよいのかをみていく。
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