大前研一 2020年の世界-「分断」から「連帯」へ-

大前研一ビジネスジャーナル特別号 No.18
未読
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出版社
出版日
2020年03月06日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

「大前研一ビジネスジャーナル」シリーズは、大前研一氏が主宰する企業経営層向けの勉強会の内容を再編集したもので、本書は特別号として2019年12月に実施した講義を書籍化している。大前氏が世界と日本の動きを俯瞰して2020年を展望しており、全70ページと非常にコンパクトにまとめられているため、大局をつかむのに最適な一冊となっている。

本書によると、現在の国際社会の中心的問題は米中の覇権争いである。米国がおなじみの「アメリカ・ファースト」で国際社会の秩序を破壊する一方、中国は共産主義国でありながら、100年前の米国を彷彿とさせるような、「一帯一路」という名のあからさまな経済進出を押し進めている。さらに米国の自国第一主義とポピュリズムは世界中に伝播し、国際社会は分断・瓦解の危機に瀕している。

混迷を極める世界にあって、日本はますます低迷の一途をたどっている。大前氏によれば、「静かなる死に向かっている」のだ。元凶は貿易立国時代の名残で、「円安信仰」から抜けられないこと。さらに、世界にも例のない「超低欲望社会」であることも、経済が低迷する大きな要因だ。自身の消費生活に引き寄せて考えると、身に覚えのある読者もいるかもしれない。

ではどうすればいいのか。抜本的な教育改革で21世紀に通用する人材を育成せよ――大前氏はこう断言する。日本の最大の問題はあらゆる面での人材不足。そこにメスを入れなければ明るい未来はないという。どんな業種業界の読者にとっても、決して他人事ではないはずだ。

ライター画像
小島和子

著者

大前研一(おおまえ けんいち)
株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長/ビジネス・ブレークスルー大学学長
1943年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。以後も世界の大企業、国家レベルのアドバイザーとして活躍するかたわら、グローバルな視点と大胆な発想による活発な提言を続けている。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長及びビジネス・ブレークスルー大学大学院学長(2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラムとして開講)。2010年4月にはビジネス・ブレークスルー大学が開校、学長に就任。日本の将来を担う人材の育成に力を注いでいる。

本書の要点

  • 要点
    1
    米中の覇権争いを軸に世界が混迷を極める中、世界の富を少数のIT巨人が寡占し、企業業績は低迷している。
  • 要点
    2
    世界中で自国第一主義とポピュリズムが加速した結果、米国では三権分立が崩壊し、英国は分断寸前だ。
  • 要点
    3
    資産が豊かなはずの日本だが、円安信仰が「静かなる死」を招いている。
  • 要点
    4
    日本の課題は、質・量ともに人材が不足していることにある。抜本的な教育改革で人材の質を上げ、外国人労働者と「ワンチーム」をつくるべきだ。

要約

世界経済の動向

ポピュリズムの拡大
Andrii Yalanskyi/gettyimages

世界情勢が混迷を極めている。その原因の1つはポピュリズムの拡大だ。米国トランプ大統領が悪い見本となり、世界中に「ミニトランプ」が誕生している。民主主義の末期は愚衆政治となり、ポピュリストが台頭してくるというのは、古代ギリシャの頃から変わっていない。民主主義の時代に、終わりが近づいている。

世界情勢の問題の中心は米中の覇権争いだ。その背景には中国の目覚ましい経済成長がある。今の米中貿易戦争は、かつて1960〜80年代に展開された日米貿易戦争とはまったく違う構図だ。日本企業は当時、米国の要請に答えて米国に生産拠点をつくり、大量の人材を送り込んだ。確かに米国の雇用を奪っていたのだ。

だが、今そんなことをしている中国企業は1つもない。トランプ氏は「中国は米国の雇用を奪っている」と言うが、まったくの事実誤認である。中国が米国に攻め込んでいるのではなく、米国が中国に生産を委託している、場合によっては特定の会社にOEMとして生産させているだけだ。

中国が展開する新帝国主義

中国が掲げる「一帯一路」構想は新帝国主義の表れだ。中国には、かつて欧米が展開する帝国主義で割を食っていたが、今度は自分たちの番だという発想がある。新シルクロードや一帯一路など、一見美しく聞こえのよい言葉を並べているが、実のところはお金という武力をもって、自分たちが覇権を握る番だと主張しているのだ。欧州につながる「陸のシルクロード」に加え、「海のシルクロード」の確立も進められている。

一方、お金のない国は中国に頼りがちになる。ギリシャは中国にピレウス港を買ってもらい、そこを中国向けの貿易拠点として欧州全体に対する入り口を開いた。モルディブやスリランカも中国マネーへの依存度を増し、フィリピンのスプラトリー諸島には中国が滑走路までつくっているほどだ。

日米欧の金融の動向

日米欧の金融の動向を見ると、いずれも金利を下げ、金融緩和の方向にある。

マイナス金利の日本では、債務返済に当てるために日本銀行が「お金の印刷」という禁じ手を使っているものの、発行したお金を市場ではなく日銀が吸収してしまい、生産や消費に回っていない。

その理由は日本が世界にも例のない「超低欲望社会」だからだ。たとえ「家が欲しい」としても、日本人は1戸持ったら満足してしまう。アメリカ人なら、平均3戸ぐらい欲しいと考えるところだ。今の日本人の発想では、経済が膨らむはずがない。

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要約公開日 2020.06.11
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