問いのデザイン

創造的対話のファシリテーション
未読
問いのデザイン
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創造的対話のファシリテーション
未読
問いのデザイン
出版社
学芸出版社

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出版日
2020年06月04日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

「社員たちに、組織の課題を自分ごとで考えてもらうにはどうすればいいか」。こうした悩みに直面している経営者やマネージャー層は多いだろう。悩みの中身を紐解いていくと、人間の「認識」と「関係性」が固定化しているという、現代社会に共通した病にぶつかる。認識が固定化されると、物事の深い理解や創造的な発想の妨げとなる。そして、関係性が固定化されれば、お互いの認識や前提のズレが修正しにくくなってしまう。こうして、「変わりたくても変われない」という問題を生み出してしまうのだ。

この状況を打破するカギは何なのか? そこに「問いのデザイン」という新たな武器を与えてくれるのが本書だ。私たちに求められているのは、課題に対する「答え」を急いで出すことではない。それよりも、問題の本質を捉え、現状を打破する「問い」をデザインし、それをワークショップで当事者と共有することが重要となる。

問いのデザインはこれまで、体系立てた理論をつくるのが困難とされてきた。しかし著者らは、数々のワークショップの経験から、狭義のファシリテーションの技術論にとどまらない、本質的な問いの立て方と創造的対話の促進に向けた多くの思想とノウハウを提示している。読み進めるにつれ、メンバーを本気にさせ、チームの成果を引き出す「問い」や「対話」の本質を理解できるようになるだろう。

本書は、斬新な発想で大きな問題に切り込んでいきたいと考えるビジネスパーソンにとって、貴重な道標となる一冊だ。

ライター画像
ヨコヤマノボル

著者

安斎勇樹(あんざい ゆうき)
株式会社ミミクリデザインCEO。株式会社DONGURI CCO。東京大学大学院情報学環特任助教。1985年生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。組織の創造性の土壌を耕すワークショップデザイン・ファシリテーション論について研究している。著書に『協創の場のデザイン:ワークショップで企業と地域が変わる』『ワークショップデザイン論:創ることで学ぶ』(共著)。

塩瀬隆之(しおせ たかゆき)
京都大学総合博物館准教授。1973年生まれ。京都大学工学部卒、同大学院工学研究科修了。博士(工学)。専門はシステム工学。2012年7月より経済産業省産業技術政策課にて技術戦略担当の課長補佐に従事。
2014年7月より復帰。小中高校におけるキャリア教育、企業におけるイノベーター育成研修など、ワークショップ多数。平成29年文部科学大臣賞(科学技術分野の理解増進)受賞。著書に『インクルーシブデザイン:社会の課題を解決する参加型デザイン』(共著)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    固定化された「認識」と「関係性」は「変わりたくても変われない」という状態を生み出す。それらを揺さぶるのは、人の思考と感情を刺激し、対話を生み出す「問い」である。
  • 要点
    2
    「問いのデザイン」は、解くべき課題を定める「課題のデザイン」と対話を促進する「プロセスのデザイン」から成る。
  • 要点
    3
    ワークショップとは、「普段と異なる視点から発想する、対話による学びと創造の技法」である。
  • 要点
    4
    ワークショップにおける問いのデザインとは、何かに気づいたり、集団が変化したり、新たなアイデアを創発したりするプロセスのデザインだ。

要約

【必読ポイント!】 問いのデザインとは何か

ゾウの鼻くそはどこに溜まるのか?

問いのデザインについて考える前に、そもそも「問いとは何か?」という問いに向き合わなくてはならない。問う行為には、それに対して「答えを出す」という行為がセットで想定されている。問いの設定によって、導かれる答えは変わりうる。これが問いの基本性質の1つだ。

もちろん、問いの役目は、良い答えを手に入れることだけではない。人の思考と感情を刺激するのも、問いの基本性質の1つだ。「考えたい」と動機づけることで、日常で凝り固まった認識を揺さぶるのである。

たとえば、動物園に行って、「ゾウの鼻くそはどこに溜まる?」と尋ねられたらどうか。いろいろと考えた上で、この疑問について誰かと話し合いたくなるのではないだろうか。このように、問いには、集団のコミュニケーションを誘発するという基本性質もある。

認識と関係性を揺さぶる「対話」
fizkes/gettyimages

問いから生まれるコミュニケーションには、「討論」「議論」「対話」「雑談」の4種類がある。なかでも、固定化された認識と関係性を揺さぶるのは対話である。対話は物事に対する意味づけ、つまり個人の認識を重視する。よって、一人ひとりの暗黙の認識が可視化され、相対化されることで、認識が問い直され、互いを理解するきっかけとなる。

対話を通して問いに向き合う過程で、個人の認識は内省されていく。対話は、個々人の暗黙の前提の違いによる断絶に気づかせてくれる。さらには、自分とは異なる他者の認識について想像を促し、新たな共通認識と関係性をつくりだす。このように、対話を通して問いに向き合う過程で、集団の関係性が再構築されるのだ。

新たなアイデアを創発する創造的対話

対話によって新たな関係性が構築されるとき、新たなアイデアが創発される場合がある。問いは新たな問いを生み、創造的対話のトリガーともなるのだ。しかし、これが本当に実現できるかどうかは、投げかける問いのデザインにかかっている。

そもそも問いに対する答えとは、客観的な正解ではない。社会構成主義の立場に立つと、私たちが現実だと思っていることは関係者のコミュニケーションによって意味づけられ、合意されたものだけであると捉えられる。たとえば組織でトラブルが起きたとき、第三者が「これが問題である」と断定することはできない。当事者自身が対話を重ねて、現実を再構成するしかないのだ。

課題のデザイン

問題を捉え直す考え方
ChristianChan/gettyimages

問いのデザインは「課題のデザイン」と「プロセスのデザイン」から成る。企業や学校、地域のさまざまな場面で発生する問題は、何を求めればよいかが明確なものばかりではない。むしろ、「漠然としたうまくいかない状況」は認識されてはいるが、そのゴールが曖昧というケースが多い。課題のデザインとは、曖昧な状態にある問題を「解くべき課題」として明確に定義し、関係者が前向きに合意できるようにすることだ。

もちろんそれは簡単なことではない。課題の設定の仕方が自分本位、優等生的といった「よくある失敗パターン」がある。必要なのは、問題の本質を捉え、関係者の思考と感情を刺激することだ。そのためには、いったん予備知識を脇に置く「素朴思考」や、あえて物事を批判的に捉える「天邪鬼思考」などの思考法が有効だ。そのほか「道具思考」「構造化思考」「哲学的思考」も、問題を捉える際に役立つ。

課題を定義する手順

そもそも「課題」とは、関係者の間で「解決すべきだ」と前向きに合意された問題を指す。適切な課題を定義することは、問いのデザインの第一歩だ。しかし、問題の渦中にいる当事者が、目標を適切に設定し、整理できていることはめったにない。課題を定義する際は、次の5段階のステップを踏んでいくとよい。

まずは問題状況の「要件の確認」である。次は「目標の精緻化」だ。具体的には、目標を短期・中期・長期でブレイクダウンし、優先順位をつける。また、成果目標・プロセス目標・ビジョンの3つに整理していく。

3つ目のステップは「阻害要因の検討」である。当事者の固定観念が強固である、または合意形成ができないといった、目標達成を阻害する要因を詳しく見ていく。すると、それが目標修正のきっかけになり得る。

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要約公開日 2020.08.22
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