中国や米国、一部の北欧や東南アジアの国々ではすでに、もともとオフラインだった生活行動のすべてがオンラインで完了できるようになっている。キャッシュレス決済や食事のデリバリーサービス、配車サービスなどがその一例だ。そのオンラインデータは個人のIDと紐づけされ、膨大かつ高頻度で生まれる行動データとして利用可能である。日本もだんだんそうなっている。
鍵となるのは「行動データ」だ。行動データは顧客理解の解像度を上げ、付加価値の向上を可能にする。アフターデジタル社会では、行動データを利活用できない者は負けていく。
オンラインがオフラインに浸透すると、「純粋なオフライン」という状況が減っていく。アプリやSNSなどの純粋なオンライン接点だけでなく、IoT(モノのインターネット)などを活用したリアル融合型のオンライン接点が増加しているからだ。オフラインのリアルの世界は、オンラインのデジタルの世界よりも存在感が小さくなっていく。
これまでの日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、「リアルを中心に据えてデジタルを付加価値と捉える」という姿勢に根差していた。「アフターデジタル」では、リアルとデジタルのこの主従関係を反転させて考えなければならない。
しかし、それはリアルが重要ではなくなるという意味ではない。感動的な体験や信頼の獲得などはリアルのほうが得意である。リアル接点は「今までよりも重要な役割を持つが、頻度はレアになる」のだ。「オンラインリアル」を考えることも重要である。オンラインでの顧客行動をリアル接点に活かせば、接客品質も高まる。リアル接点はデジタルによって強化されるべきものなのだ。
アフターデジタルの最も大きな社会変化は、属性データから行動データへの変化である。属性データでは顧客を「人」単位で大雑把に捉えていたのに対し、行動データでは人を「状況」単位で捉えられる。これにより、最適なタイミングで、最適なコンテンツを、最適なコミュニケーション方法で提供することが可能になる。これはビジネスにおける大きな転換点だ。年齢・性別などの属性ではなく、ある状況がどの程度の頻度・ボリュームで発生し、その状況でどれくらいのお金が使われるかで市場を規定する。これを本書では「状況ターゲティング」と呼ぶ。
状況ターゲティングで重要なのは、ユーザーの置かれた状況を把握してそれに対する解決策や便益を提供し、ユーザーとの接点を高頻度に保つことだ。これは商品販売型のビジネスでは難しいため、体験提供型ビジネスに優位性が移行していくことになる。ここで言う体験提供型ビジネスの代表例はサブスクリプションサービスだ。ただし、顧客の状況理解と定常的な価値提供につながっていることが大前提である。
アフターデジタル社会で成功する企業が共通して持つ思考法が、OMO(Online Merges with Offline)である。オンラインとオフラインを分けるのではなく、一体の「ジャーニー」として捉えるものだ。ジャーニーとは、人の行動・思考・感情などを見える化したものを指す。オフラインがなくなり始めている環境では、顧客はもはやオンラインかどうかの区別を意識していない。そのとき一番便利な方法を選んでいるだけだ。それにもかかわらず、多くの企業はいまだにオンラインとオフラインの事業を分けている。社会の現状と食い違ったビジネス構造になっているのだ。両者を区別せずに、一体の「ユーザージャーニー」として捉えることの重要性が高まっている。オンラインの競争原理でものを考えなくてはならない。
重要なのは、UX(User Experience)と行動データを掛け合わせることだ。
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